fc2ブログ
RSS

馬の文献:繋靭帯炎(Waselau et al. 2008)

Blog_Litr0405_006_Waselau2008_Pict1.jpg

「スタンダードブレッド競走馬の体部繋靭帯炎に対する多血小板血漿の病巣内注射と運動管理療法」
Waselau M, Sutter WW, Genovese RL, Bertone AL. Intralesional injection of platelet-rich plasma followed by controlled exercise for treatment of midbody suspensory ligament desmitis in Standardbred racehorses. J Am Vet Med Assoc. 2008 May 15;232(10):1515-20.

この症例論文では、馬の繋靭帯炎に対する多血小板血漿(PRP: Platelet-rich plasma)の注射療法の治療効果を検証するため、米国のオハイオ州立大学において、2003〜2004年にかけて、体部繋靭帯炎を発症した九頭のスタンダードブレッド競走馬に対して、PRPの病巣内注射と、その後の運動管理療法を実施して、三年間にわたる経過追跡とレース成績の解析が行なわれました。

結果としては、体部繋靭帯炎へのPRP注射療法のあと、競走復帰した症例馬は100%(9/9頭)であり、治療の翌年と翌々年にも、全頭が出走を果たしていました。しかし、症例馬と対照馬を比較した場合、治療の翌年の獲得賞金と(一レースごとの平均賞金は、症例馬は339ドルで、対照馬は644ドル)、治療から三年目の出走回数は(中央値で、症例馬は9回で、対照馬は20回)、いずれも、症例馬のほうが有意に少なくなっていました。

このため、競走馬の体部繋靭帯炎に対するPRPの病巣内注射では、競走復帰としての予後は非常に良好(Excellent)であると結論付けられていますが、出走数や獲得賞金のデータを見るかぎり、競走能力の回復は完全ではなかった、という解釈も成り立つのかもしれません。なお、この研究では、症例馬の全頭に対して、PRP注射と運動管理療法が併用され、注射無し又はプラセボ注射(無作為割り当て)との比較もされていないため、PRP療法の効能を評価する意味では、課題のある研究デザインであると言えます。

Blog_Litr0405_006_Waselau2008_Pict2.jpg

この研究では、全ての症例馬のエコー検査において、繋靭帯の病変グレード[1]が四段階中の3以上で、病変の断面積も靭帯全体の15%以上となっていました。このため、治療前には、中程度から重度の繋靭帯炎を発症していたと推測され、これらの病変に対するPRP注射によって、全頭がレース復帰していたことは、治療効果の高さを示唆するデータであると考えられます。ただ、治療対象となった症例は、無作為に選ばれた訳ではなく、馬主や調教師もPRP注射されたことは知らされていたため、治療後には、よりアグレッシブに競走復帰を目指すというバイアスが働いた可能性は否定できないと言えます。

この研究では、血液中の血小板濃度は平均16万個/μLで、生成されたPRPの血小板濃度は137万個/μLとなっており、約8〜9倍の濃縮が達成されたことが分かりました[2]。また、全てのPRPは、市販キットに付属されている牛のトロンビンと混和させながら注射する手法が応用されています。過去の文献では、馬のPRPに牛のトロンビンを混和することで、TGF-beta等の成長因子が遊離されることが示されています[3]。しかし、実際のPRP注射の際に、トロンビンによる血小板の活性化が必須なのか、また、PRP注射した箇所で、馬自身のトロンビンで活性化することで十分なのかは実証されていません。

Photo courtesy of J Am Vet Med Assoc. 2008 May 15;232(10):1515-20.

参考文献:
[1] Bertone AL, Goin S, Kamei SJ, et al. Metacarpophalangeal collateral ligament reconstruction using small intestinal submucosa in an equine model. J Biomed Mater Res A. 2008 Jan;84(1):219-29.
[2] Sutter WW, Kaneps AJ, Bertone AL. Comparison of hematologic values and transforming growth factor-beta and insulin-like growth factor concentrations in platelet concentrates obtained by use of buffy coat and apheresis methods from equine blood. Am J Vet Res. 2004 Jul;65(7):924-30.
[3] Everts PA, Brown Mahoney C, et al. Platelet-rich plasma preparation using three devices: implications for platelet activation and platelet growth factor release. Growth Factors. 2006 Sep;24(3):165-71.

関連記事:
馬の病気:繋靭帯炎
関連記事

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: アラフィフ
住所: 北関東
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

質問、御意見、記事の要望等は下記まで
E-mail: rowdyponies@gmail.com

最新記事

ブログメニュー

馬の話題

馬の病気の話題
・蹄葉炎, 切腱術
・ナビキュラー症候群
・蹄病一般, 装蹄
・腱靭帯疾患
・背部/腰部/仙腸部疾患
・プアパフォーマンス
・消化器疾患一般
・胃潰瘍
・虚血再灌流障害
・呼吸器の医療
・神経疾患, 神経学検査
・クッシング病
・繁殖疾患と繁殖学
・皮膚病の医療
・眼科疾患, 眼科治療
・歯科疾患, 歯科治療
・寄生虫病
・高齢馬の医療
・子馬の病気や管理法
・子馬/若齢馬の長期的影響
・突然死
・症例シリーズ

馬の医療の話題
・疝痛の検査
・経鼻チューブ
・腹水検査
・疝痛の予防
・疝痛の手術判断と予後予測
・開腹術の手技や合併症
・疝痛の外科的処置
・疝痛の獣医療での地域差
・跛行検査, 画像診断
・関節鏡
・去勢, 泌尿生殖器
・抗生物質
・COX-2限定阻害薬
・破骨細胞抑制剤
・ショックウェーブ
・パーグ治療
・馬のハンドリング, 投薬
・バイオマーカー
・麻酔
・整形外科
・キャスト, ピンキャスト
・再生医療
・先端医療
・良い死(Euthanasia)
・馬の獣医療一般

馬の一般的話題
・馬の飼養管理一般
・飼養管理での病気/怪我の予防
・馬学一般
・ウマ社会の話題
・獣医学一般, 日常
・馬の飼料
・跛行と運動
・調馬索
・サク癖
・馬の行動学や悪癖
・ハミや馬具
・輸送
・怪我や事故の予防,対処法
・ホースマンの怪我と事故
・競馬での事故死や骨折
・馬とヒト, 伝染病, 馬動物学

馬の診療シリーズ

サイト内タグ一覧

FC2カウンター

リンク

カレンダー

01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -

推薦図書

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
22位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
2位
アクセスランキングを見る>>

FC2ブログランキング

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

検索フォーム

QRコード

QR