馬の病気:筋強直症
馬の運動器病 - 2013年09月10日 (火)

筋強直症(Myotonia)について。
筋強直症は、自発性収縮(Voluntary contraction)または力学的刺激(Mechanical stimulation)による筋収縮のあとに、筋弛緩の遅延(Delayed muscle relaxation)を生じる疾患を指し、先天性筋強直症(Myotonia congenita)と筋強直性ジストロフィー(Myotonia dystrophica)の二つの病態に分類されます。他の動物種におこる筋強直症の病因としては、筋鞘イオンチャンネルの機能不全(Sarcolemmal ion channel dysfunction)が挙げられ、遺伝的素因(Genetic predisposition)が関与すると考えられていますが、馬の筋強直症における病因論と遺伝性は未だに確定されていません。
先天性筋強直症の臨床症状は、生後一年以内に見られるようになり、後肢の強直歩様(Hindlimb stiffness)や、大腿および臀部筋郡における両側性の細かい凹みや膨隆(Bilateral dimpling/bulging of the thigh and rump muscles)が見られ、打診(Percussion)によって広範囲にわたって筋郡の凹みが悪化する所見(Exacerbation of muscle dimpling)が認められます。筋強直性ジストロフィーの症状としては、重篤な骨格筋萎縮(Severe skeletal muscle atrophy)を呈し、他の腹腔臓器の萎縮を生じる場合もあります。先天性筋強直症の羅患馬では、一歳齢以降に臨床症状の悪化(Exacerbation of clinical signs)が見られることはあまりありませんが、筋強直性ジストロフィーの症例では、進行性の病状(Progressive manifestation)を示すことが多いことが知られています。
筋強直症の診断では、視診と触診にあわせて、電気筋運動記録検査(c examination)が行われ、特徴的所見(Pathognomonic sign)である漸増漸減性の反復突発波(Crescendo-decrescendo repetitive bursts)と、いわゆる“急降下爆撃音”(Dive bomber sound)が観察されます。羅患部の筋生検(Muscle biopsy)においては、先天性筋強直症の症例では、筋繊維分割(Muscle fiber splitting)や1型筋繊維肥大(Type-I muscle fiber hypertrophy)が認められ、筋強直性ジストロフィーの症例では、輪状筋繊維(Ringed muscle fiber)、筋核の変位や変形(Alteration of myonuclei shape/position)、筋形質腫瘤(Sarcoplasmic mass)、筋内および筋周囲結合繊維の増加(Increased endomysial/perimysial connective tissue)などが示されます。
筋強直症の治療では、病因論が不確定であるため、効果的な治療法は提唱または報告されていませんが、筋強直性ジストロフィーに対しては、フェニトイン投与によって症状が改善した症例も報告されています。筋強直症の予後は個体差が大きく、加齢に伴って筋肉量の回復が見られる症例もあれば、進行性の病態を示して歩行困難となり、安楽死(Euthanasia)が選択される場合もあります。馬の筋強直症に関する遺伝性は確証されていませんが、馬主に対しては、遺伝的素因が関与している危険を考慮して、罹患馬の繁殖使用を熟考するように指導する事が推奨されています。
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