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湿らせた乾草による馬の息労への影響

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高齢馬においては、ヒトの喘息に類似した呼吸器病が起こることがあり、これを、回帰性気道閉塞(いわゆる息労:Recurrent airway obstruction)と呼んでいます。馬の息労は、舎飼いされている個体に好発し、ホコリや厩舎ダストに対するアレルギー反応が病因になると考えられています。このため、息労の治療に際しては、抗炎症剤や気管支拡張剤などの薬物療法に併行して、吸引されるアレルゲンを少なくする飼養管理が重要だと言われています。そして、馬が吸い込むホコリを減らす方策として、乾草を水に浸してから給餌する方法が推奨されています。

そこで、今回は、乾草を湿らせることによる呼吸器の機能や炎症への影響を評価した知見を紹介します。下記の研究では、息労の診断が下された10頭の症例馬を用いて、湿らせた乾草、または、アルファルファペレットを六週間にわたって給餌して、その間における、内視鏡検査、気管支肺胞洗浄(BALF)、および、マスク装着による肺組織の通気抵抗の測定を介した、下部気道の機能と炎症病態の評価が実施されました。

参考文献:
Westerfeld R, Payette F, Dubuc V, Manguin E, Picotte K, Beauchamp G, Bédard C, Leclere M. Effects of soaked hay on lung function and airway inflammation in horses with severe asthma. J Vet Intern Med. 2023 Nov 6. doi: 10.1111/jvim.16919. Online ahead of print.

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結果としては、算出された通気抵抗の中央値を見ると、湿らせた乾草の給餌群では、給餌前(1.89 cmH2O/L/s)よりも給餌六週間後(0.61 cmH2O/L/s)のほうが、肺組織の通気抵抗が有意に軽減されたことが分かりました。一方で、アルファルファペレットの給餌群では、給餌前(2.47 cmH2O/L/s)よりも給餌六週間後(1.59 cmH2O/L/s)のほうが、中程度の軽減に留まっていました(有意差は無し)。両群を比較した場合、給餌前後の通気抵抗の減少幅(平均値)は、湿らせた乾草の給餌群では、マイナス1.31 cmH2O/L/sに達しており、アルファルファペレットの給餌群(マイナス1.06 cmH2O/L/s)よりも、明瞭に減少度合いが大きくなっていました。なお、息労の臨床症状スコアは、両群ともに有意に改善していたことが報告されています。

このため、息労の罹患馬に対しては、湿らせた乾草を給餌することで、呼吸器のアレルギー反応を抑えて、下部気道の機能を改善させる効能が期待されると考えられました。ただ、今回の研究のプロトコルでは、乾草を45分間にわたって水に浸してから給餌した後、馬が食べ残して、乾いてしまった乾草は全て除去する、という厳格な管理方針が実施されていたため、実際の飼養管理の際には、手間や煩雑性の問題が出てくると考察されています。なお、内視鏡での粘膜スコアは、湿らせた乾草の給餌群のみ有意に良化していましたが、BALFの好中球数は、アルファルファペレット群のみ有意に減少していました。

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過去の文献では、湿らせた乾草を給餌することで、息労症状が改善したという報告がある一方で[1]、その効能は限定的であったとの知見もあります[2]。今回の研究において、良好な成績が見られた要因としては、乾草を水に浸しておく時間が充分に長かったこと、食べ残した乾草が除去されたこと、六週間にわたって根気強く継続したこと、および、敷料がホコリの少ないウッドチップであったこと、などが挙げられています。他の文献では、飼料をペレットに変えることと、ウッドチップへの敷料変更を併用することで、馬が吸引される粉塵量が半分以下まで減ったという知見もあります[3]。

一般的に、乾草を水に浸すことは、ホコリを減らすメリットの他に、水溶性炭水化物(WSC)やミネラル/ビタミンが水に溶け出して損なわれる、というデメリットもあると言われています。ただ、その度合いに関するデータは多様で、十二時間の浸水で2〜4%のWSCが損失しただけという知見や[4]、九時間の浸水で34%ものWSCが損失してしまったという報告もあります[5]。このため、息労馬に対して湿らせた乾草を給餌する場合には、ボディコンディションスコアを注視して、馬が削痩しないように留意すること、および、ミネラルやビタミンのサプリメントを飼料添加することが推奨されています。

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この研究で比較対象となったのは、湿らせた乾草とペレットの二種類のみであり、また、飼養環境としては、全頭が舎飼いで統一されていました。それに対して、実際の息労での予防対策としては、ホコリの少ない発酵飼料(ヘイレージ)や、水ではなくオイルを加えた乾草を与えるなどの選択肢も考えられます。また、放牧飼いへの移行や、敷料の変更のほか、ホコリや厩舎ダストを減らすような管理法の工夫で、充分に呼吸器症状を制御できるケースも考えられます(換気扇を設置する、厩舎の端っこの馬房に移動させる、厩舎の通路や周囲に水を撒く、馬房掃除の時間帯は屋外に馬を出しておく等)。つまり、湿らせた乾草の給餌は、あくまで、息労対策の一つに過ぎないと認識して、此処の馬の飼養環境に応じて、最善のホコリ対策を根気強く探すことが重要だと言えそうです。

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参考文献:
[1] Simoes J, Sales Luis JP, Tilley P. Owner Compliance to an Environmental Management Protocol for Severe Equine Asthma Syndrome. J Equine Vet Sci. 2020 Apr;87:102937.
[2] Boivin R, Pilon F, Lavoie JP, et al. Adherence to treatment recommendations and short-term outcome of pleasure and sport horses with equine asthma. Can Vet J. 2018 Dec;59(12):1293-1298.
[3] Woods PS, Robinson NE, Swanson MC, et al. Airborne dust and aeroallergen concentration in a horse stable under two different management systems. Equine Vet J. 1993 May;25(3):208-13.
[4] Warr EM, Petch JL. Effects of soaking hay on its nutritional quality. Equine Vet Educ. 1992;5:169-171.
[5] Moore-Colyer MJ, Lumbis K, Longland A, et al. The effect of five different wetting treatments on the nutrient content and microbial concentration in hay for horses. PLoS One. 2014 Nov 26;9(11):e114079.

参考動画:Hay Soaker - JFC Agri


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