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疝痛馬の開腹術後に起こる大腸炎の危険因子

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一般的に、馬という動物は、開腹術での予後が悪くなりやすいことが知られており、その要因となる術後合併症としては、術創感染、イレウス、内毒素血症、静脈炎、腹膜炎、下痢症、および、大腸炎が挙げられています。また、馬が二次病院で術後入院しているときに起こる大腸炎(Post-operative colitis)は、その発症率が9〜13%に達して[1]、生存率の低下と治療費の高騰に繋がることが知られています。ここでは、疝痛馬の開腹術のあとに起こる大腸炎について、発症の実態や危険因子を検証した知見を紹介します。

下記の研究では、米国の三箇所の馬病院において、2011〜2020年にかけて、探索的な開腹術が行なわれた504頭の疝痛馬での医療記録の回顧的解析、大腸炎の発症状況の調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の評価が実施されました。なお、大腸炎の定義としては、術後に下痢症を呈して、かつ、発熱/好中球減少症/エコー画像での結腸炎症像(結腸壁の厚さが4mm以上)のうち、一つ以上を認めた場合とされました。

参考文献:
Givan SA, Estell KE, Martinez-Lopez J, Brown JA, Wong DM, Werre SR. Risk factors associated with development of colitis in horses post-exploratory laparotomy. Equine Vet J. 2023 Nov 7. doi: 10.1111/evj.14028. Online ahead of print.

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結果としては、開腹術が適応された疝痛馬のうち、術後における大腸炎の発症率は8.3%にのぼる(42/504頭)ことが分かりました。このうち、サルモネラ菌が分離されたのは12%(5/42頭)、クロストリディウム菌が分離されたのは5%(2/42頭)となっていました。ただ、短期生存率(退院した馬の割合)を見ると、大腸炎の発症馬では95%(40/42頭)、それ以外の馬では93%(429/462頭)となっており、両群のあいだに有意差はありませんでした。ただ、術後の入院日数(中央値)を見ると、大腸炎の発症馬(九日間)のほうが、それ以外の馬(七日間)よりも入院が長かったことが分かり、また、抗生剤投与の日数(中央値)も、大腸炎の発症馬(六日間)のほうが、それ以外の馬(五日間)よりも長くなっていました。

このため、馬の開腹術のあとに起こる大腸炎は、発症率はそれほど高くなく(約12頭に一頭の頻度)、また、クロストリディウムなどの深刻な下痢症を起こしうる細菌に起因するケースは少ないことから、術後の生存率には有意には影響しないことが示唆されました。一方で、大腸炎の発症によって、入院や抗生剤投与の日数が増えていたことから、治療費の増加には繋がったと推測されることから、可能な限り、大腸炎の予防措置を取ることが重要だと考えられました。なお、大腸炎の発症馬のうち、サルモネラ菌またはクロストリディウム菌が分離された七頭は、全て退院していました(短期生存率100%)。

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過去の文献では、馬の開腹術後における大腸炎は、発症率が3.2%に過ぎなかったという知見もあり[2]、今回の研究のほうが高い発症率(8.3%)を示していました。一方で、馬の開腹術後における下痢症では、発症率が53.2%に達したという報告もありますが[3]、今回の研究での術後下痢症の発症率(10.1%)のほうが低くなっていました。また、開腹術後の大腸炎では、小腸疾患よりも大腸疾患の場合に好発することが知られていますが、今回の研究における大腸疾患の割合は、大腸炎の発症馬(55%)と、それ以外の馬(52%)で、有意差はありませんでした。

この研究では、開腹術の際に、骨盤曲での結腸切開術が実施された馬の割合を見ると、大腸炎の発症馬(57%)のほうが、それ以外の馬(29%)よりも高いことが分かり、その結果、結腸切開術をすることで、大腸炎を続発するリスクが三倍以上も高くなる(OR=3.69)というデータが示されました。この要因としては、骨盤曲切開により結腸内の食滞物を洗い流すときに、腸内細菌叢も一緒に損失してしまうことが、術後に大腸炎を続発する一因になっていると推測されています。このため、術後に生菌剤(プロバイオティクス)を経口投与したり、結腸を洗浄する時に、敢えて腸内容物を一部残しておくことで、開腹術後の大腸炎を予防できる可能性があると考えられます。

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この研究では、開腹術のあとに、好中球の減少症または増加症を起こした馬の割合を見ると、大腸炎の発症馬(74%)のほうが、それ以外の馬(13%)よりも高いことが分かり、その結果、好中球の減少症/増加症を起こすことで、大腸炎を続発するリスクが20倍以上も高くなる(OR=21.23)というデータが示されました。ただ、この場合には、因果関係が逆であると推測され、大腸炎を発症した馬では、全身性炎症反応症候群(SIRS)もしくはBacterial translocationにより、血中の好中球の増加/減少を生じたためと考えられました。つまり、好中球の増減を病因と見なすのではなく、大腸炎の重篤度を示す指標だと考えて、治療への反応性や病態進行の目安にするのが良いと考えられます。

この研究では、開腹術の前に、血中の乳酸値が上昇(>2mmol/L)していた馬の割合を見ると、大腸炎の発症馬(45%)のほうが、それ以外の馬(25%)よりも高いことが分かり、その結果、乳酸値が上昇することで、大腸炎を続発するリスクが三倍近く高くなる(OR=2.97)というデータが示されました。この要因としては、乳酸値上昇に示される虚血性病態の存在が(結腸の絞扼や捻転)、粘膜の透過性亢進やバリアー崩壊を招いて、術後の大腸炎の発症を助長したためだと考えられます。

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この研究では、大腸炎よりも予後への悪影響が大きい因子も確認されており、例えば、術後イレウス(POI)を発症した馬では、発症しなかった馬と比較して、生存率が大きく下がる(非発症馬95%→発症馬79%)ことが分かりました。同様に、術後に頻脈を呈した場合や(94%→87%)、入院中に疝痛症状を再発した場合(96%→73%)、および、術後に二度目の開腹術を要した場合(94%→57%)などにも、生存率が有意に低下していました。これらは何れも、過去の知見を裏付けるデータであると言え、これらの因子に比べると、大腸炎の発症は、生存率などに与える悪影響は相対的に低いと考えられました。

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参考文献:
[1] Dallap Schaer BL, Aceto H, Caruso MA 3rd, et al. Identification of predictors of Salmonella shedding in adult horses presented for acute colic. J Vet Intern Med. 2012 Sep-Oct;26(5):1177-85.
[2] Mair TS, Smith LJ. Survival and complication rates in 300 horses undergoing surgical treatment of colic. Part 2: Short-term complications. Equine Vet J. 2005 Jul;37(4):303-9.
[3] Cohen ND, Honnas CM. Risk factors associated with development of diarrhea in horses after celiotomy for colic: 190 cases (1990-1994). J Am Vet Med Assoc. 1996 Aug 15;209(4):810-3.

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