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セレン投与による馬の抗酸化作用

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一般的に、成馬の重度疝痛(内毒素血症)や子馬の敗血症では、過剰生成された活性酸素種(Reactive oxygen species: ROS)によって、血管内皮の損傷や血管透過性の亢進を生じて、多臓器不全を続発することが知られています。そして、ROSに対する馬体の防御機構には、酵素系としてはグルタチオンペルオキシダーゼ、非酵素系としてはビタミンCやビタミンEが挙げられます。このうち、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)等の抗酸化酵素に関しては、セレンが抗酸化酵素の構成成分であることから、セレンの投与が抗酸化治療の一つになりうると考えられています。

参考文献:
Culhuac EB, Elghandour MMMY, Adegbeye MJ, Barbabosa-Pliego A, Salem AZM. Influence of Dietary Selenium on the Oxidative Stress in Horses. Biol Trace Elem Res. 2023 Apr;201(4):1695-1703.

過去の研究[1]では、セレンの投与または欠乏による、馬体の抗酸化能への好影響/悪影響を評価するため、28頭の健常な実験馬を用いて、低容量、適正容量、高容量のセレンの経口投与を行ない、その後の血液検査によって、総抗酸化能(TAC)を測定し、合わせて、過酸化分解生成物であるマロンジアルデヒド(MDA)、甲状腺ホルモン(トリヨードチロニンとチロシン)、および、GPxの血中濃度が計測されました。

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結果としては、低容量セレンの投与群では、TAC値の有意な低下が見られ、逆に、高容量セレンの投与群では、TAC値が有意に上昇しており、さらに、低容量セレンの投与後に高容量セレンが投与された場合にも、TAC値の有意な上昇が確認されました。さらに、適正容量のセレンが投与されていた馬に対しても、3mg/kg体重のセレンを投与することで、抗酸化酵素(GPx)の活性が増加することも示されています。

このため、馬に対する高容量セレンの投与では、抗酸化作用が向上されることに加えて、セレン不足により低下していた抗酸化能を補正できる可能性が示唆されました。なお、セレン投与によるMDAや甲状腺ホルモンの濃度への影響は、有意には認められませんでした。この研究は、健常馬を用いた実験であったため、今後の研究では、実際の疝痛や敗血症の罹患馬において、セレン投与によるROSへの防御作用が得られるかを検討する必要があると考えられます。

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また、近年では、脂質過酸化反応による筋肉損傷に対する、セレン投与での抗酸化作用についても検証されています。過去の研究[2]では、12頭の健常な実験馬を用いて、適正容量または高容量のセレン投与を行なった後、二時間の最大下運動を課して、抗酸化酵素の一つであるチオレドキシン還元酵素(TrxR)、および、脂質過酸化生成物である、脂質ヒドロペルオキシドの血中濃度が測定されました。

結果としては、高容量セレンが投与された馬では、TrxRの血中濃度が有意に増加しており、また、運動後の血液における脂質ヒドロペルオキシドの濃度上昇は、高容量セレンが投与された馬では認められませんでした。このため、馬に対する高容量セレンの投与では、脂質過酸化反応に対する防御能が向上されることで、筋肉損傷を抑える効能が期待されると考えられました。一方で、運動負荷による筋酵素(CPK)の血中濃度上昇は、セレン投与量によって有意には変化していなかったことから、今後の研究では、セレン投与によって、運動後の筋炎や筋痛が実際に緩和されるのかを精査する必要があると言えそうです。

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更に、近年の研究[3]では、馬に対するセレン投与では、抗酸化作用の他にも、ビタミンE不足によるミトコンドリアでのエネルギー産生能の低下を補正できることが示されています。一般的に、TCA回路での充分なエネルギー産生が維持されれば、脂質酸化によるエネルギー補填、および、脂質過酸化反応も低く抑えられることから、運動による筋損傷を軽減させる効能が期待されます。勿論、セレンの急速投与には中毒症のリスクがあるため[4]、今後は、継時的な経口投与により、緩やかに抗酸化作用を付与していくことで、ROSや脂質過酸化に対する防御能力を改善できるかを、実際の疾患モデルで検証していく必要があると言えます。

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参考文献:
[1] Brummer M, Hayes S, Dawson KA, et al. Measures of antioxidant status of the horse in response to selenium depletion and repletion. J Anim Sci. 2013 May;91(5):2158-68.
[2] White SH, Johnson SE, Bobel JM, et al. Dietary selenium and prolonged exercise alter gene expression and activity of antioxidant enzymes in equine skeletal muscle. J Anim Sci. 2016 Jul;94(7):2867-78.
[3] Owen RN, Semanchik PL, Latham CM, et al. Elevated dietary selenium rescues mitochondrial capacity impairment induced by decreased vitamin E intake in young exercising horses. J Anim Sci. 2022 Aug 1;100(8):skac172.
[4] Desta B, Maldonado G, Reid H, et al. Acute selenium toxicosis in polo ponies. J Vet Diagn Invest. 2011 May;23(3):623-8.

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