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馬の角膜潰瘍に対する自家血漿療法

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競走馬に好発する潰瘍性角膜炎(Ulcerative keratitis)は、眼疾患全体の約半数を占めており、重篤になった場合には視力障害の原因となり、長期的な休養と治療が必要になってきます。また、日本国内の競馬では、失明馬の出走が制限されているため、経済的な側面から見ても、角膜潰瘍を適切に治療して視力を維持することが重要であると言えます[1]。

一般的に、潰瘍性角膜炎の進行には、コラゲナーゼによって角膜実質が溶解することが関与しているため、この酵素を抑制する目的で、EDTAや自家血清の点眼が行なわれています。また、血清の代わりに血漿を用いることで、凝固蛋白や成長因子の作用により、角膜潰瘍の治癒促進に寄与するとも言われており[2]、犬においては、血清と血漿で、同程度なコラゲナーゼ抑制作用があることが報告されています[3]。

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そこで、下記の研究では、馬の角膜潰瘍に対する自家血清と自家血漿の治療効果を比較するため、六頭の健常馬から採取した角膜片に、血清/血漿のみ(陰性対照)、コラゲナーゼのみ(陽性対照)、または、コラゲナーゼと血清/血漿の混和液を三時間作用させて、角膜片の重量損失および角膜成分(ヒドロキシプロリン)の漏出濃度が測定されました。なお、この研究では、犬や猫の血清/血漿を用いた実験も実施されていましたが、下記には馬のデータのみ示しています。

参考文献:
Conway ED, Stiles J, Townsend WM, Weng HY. Comparison of the in vitro anticollagenase efficacy of homologous serum and plasma on degradation of corneas of cats, dogs, and horses. Am J Vet Res. 2016 Jun;77(6):627-33.

結果としては、陽性対照に比較した場合に、コラゲナーゼ溶解による角膜の重量損失は、血清および血漿の付与により有意に抑えられたことが分かり、また、このコラゲナーゼ抑制作用は、血清と血漿とのあいだで有意差は認められませんでした。一方、角膜成分の漏出濃度は、血清および血漿の付与により減少傾向にあったものの、統計的な有意差はありませんでした(陰性対照と陽性対照のあいだにも有意差は無し)。また、角膜の重量損失と角膜成分の漏出濃度とのあいだには、弱い相関が見られたことも報告されています(相関係数は0.31)。

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このため、馬の潰瘍性角膜炎に対しては、自家血清と自家血漿のいずれにおいても、コラゲナーゼの作用を抑制して、角膜溶解を減退できることが示唆されました。実際の臨床現場では、血清よりも血漿を点眼療法に用いる方が、血液凝固を待つ時間が不要であるため、短時間で遠心分離処置が完了できる利点があります。ただ、ヒトの研究では、血清と凍結・解凍した血漿を比較すると、角膜上皮細胞の増殖に関しては、血清のほうが優れていることが報告されているため[4]、今回の実験でも、凍結および解凍をしていない、新鮮な血漿を用いた実験が行なわれていました。

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参考文献:
[1] 黒田泰輔. 競走馬の潰瘍性角膜炎について. -日本における競走馬医療の現状(III)-. 日獣会誌 2017;70:132-138.
[2] Alio JL, Abad M, Artola A, et al. Use of autologous platelet-rich plasma in the treatment of dormant corneal ulcers. Ophthalmology. 2007 Jul;114(7):1286-1293.e1.
[3] Chow DW, Chau Y, Yeung WK, et al. In vitro evaluation of the inhibitory effect of canine serum, canine fresh frozen plasma, freeze-thaw-cycled plasma, and Solcoseryl on matrix metalloproteinases 2 and 9. Vet Ophthalmol. 2015 May;18(3):229-33.
[4] Liu L, Hartwig D, Harloff S, et al.Corneal epitheliotrophic capacity of three different blood-derived preparations. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2006 Jun;47(6):2438-44.


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