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馬の切腱術における最小侵襲性手法

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馬の蹄葉炎の外科的治療では、深屈腱の切断術(切腱術)が行なわれますが、一般的には、全身麻酔を避けて、立位でのフィールド手術として実施されます。このため、下記の研究では、フィールド手術としての侵襲性を抑えるために、エコー誘導を介した最小侵襲性の術式が検証されています。

参考文献:
Lalanne C, Bonilla AG. Minimally invasive ultrasound-assisted cutting thread tenotomy of the deep digital flexor tendon in horses: An ex vivo study. Vet Surg. 2023 Nov 23. doi: 10.1111/vsu.14055. Online ahead of print.

この研究では、馬の屠体肢(20本)を用いた実験で、湾曲させた20ゲージの脊髄針を、エコー画像での誘導を介して、深屈腱の頭側および掌側に穿刺させながら内外側の皮膚を貫通させました。そして、その脊髄針の内腔を通しながら、深屈腱の周囲に金属ワイヤーを設置して、それを前後に引くようにして深屈腱が切断されました。なお、実験肢は、球節と前膝を屈曲させた状態で保定されており、深屈腱と神経脈管束を弛緩させて、その間隙に針を通し易くする工夫がなされていました。

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結果としては、エコー誘導での最小侵襲性手法によって、全ての肢の深屈腱が完全に切断できたことが分かりましたが、浅屈腱の軽度損傷が見られた肢が55%(11/20肢)となっていました(上写真)。また、脈管神経束の損傷を起こした肢は30%(6/20肢)に及んでおり、このうち、2/3は神経のみの損傷(4/20肢)で、残りの1/3は神経と掌側指動静脈の損傷(2/20頭)を生じていました(下写真)。また、皮膚穿刺創は全て5mm以下であり、施術の平均時間は7分38秒となっていました。

このため、エコー誘導での最小侵襲性の手法によって、馬の切腱術は実施可能であるものの、術式を更に工夫することで、浅屈腱や神経、動静脈の医原性損傷を抑える必要があると考えられました。このうち、浅屈腱の軽度損傷は、臨床的な弊害は少なく(殆どの切腱術はサルベージ治療として実施されるため)、実馬におけるエコー誘導では、動静脈を損傷するリスクは下がる(エコー画像上で血流や誤穿刺時の出血が視認できるため)と推測されますが、神経組織の損傷については、ワイヤー設置箇所を最善にするなど、手技の熟練を要すると考えられます。

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一般的に、馬の管部における切腱術は、浅部切開のみでアプローチが可能で(太い筋組織が無い領域であるため)、関節包や腱鞘などの滑膜組織からも遠いことから、低侵襲性の術式であると考えられます。このため、今回の新手法のように、浅屈腱や神経を損傷するリスクを許容しながら、最小侵襲性の術式を選択することに、十分なメリットがあるのかは今後の検証を要すると言えます。また、馬の繋部での切腱術においては、浅屈腱が無く、神経や動静脈を損傷する危険性が低いため(屈腱腱鞘の内部での切断術であるため)、エコー誘導での最小侵襲性の術式が有用となるのかもしれません。

なお、今回の最小侵襲性での術式は、他の論文でも類似の方法が検証されており、馬の屠体肢(39本)を用いた実験において、全ての深屈腱の切断術が達成されたことが報告されています(下記文献と下記動画)。しかし、こちらの論文でも、周囲組織の医原性損傷を起こしたのは44%(17/39肢)に及び、そのうち、複数の組織を損傷したケースも35%(6/17肢)に達していました。また、損傷した組織としては、掌側/底側神経が5肢で、浅屈腱が4肢となっていました。このため、今後の課題としては、術式の改良、および、医原性損傷の有意性について、実馬を用いた実験にて検証する必要があると考察されています。

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Photo courtesy of Vet Surg. 2023 Nov 23. doi: 10.1111/vsu.14055.
Video courtesy of Am J Vet Res. 2023 Dec 22:1-6. doi: 10.2460/ajvr.23.09.0215.

参考文献:
De Gasperi D, El Azzi MS, Martins JPN, Brounts SH. Ex vivo study shows novel, rapid, suture-free tenotomy technique for the equine deep digital flexor tendon. Am J Vet Res. 2023 Dec 22:1-6. doi: 10.2460/ajvr.23.09.0215. Online ahead of print.

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