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馬の文献:繋靭帯炎(Guasco et al. 2013)

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「馬の近位繋靭帯炎による跛行を良化させるための外側掌側神経深部枝の切除術」
Guasco PG, Kelly G, Schumacher J, Henry RW. Excision of the deep branch of the lateral palmar nerve of horses to resolve lameness caused by proximal suspensory desmitis. Vet Surg. 2013 Apr;42(3):296-301.

この症例論文では、馬の繋靭帯炎に対する外科的療法の治療効果を検証するため、アイルランドの馬の二次病院において、2010〜2011年にかけて、近位繋靭帯炎による慢性跛行を呈した四頭の乗用馬に対して、外側掌側神経深部枝の切除術、および、術後の経過追跡が行なわれました。

結果としては、外側掌側神経の深部枝が切除された四頭は、術後の六週間目までに健常な歩様(無跛行)に回復しており、その後、術後の12ヶ月目までに跛行再発した馬はいなかったことが報告されています。これらの症例では、診断麻酔によって近位繋靭帯に疼痛が限局化され、また、同部位のエコー検査によって、靭帯線維の走行には異常が無かったことが確認されていました(靭帯が肥厚している所見はあり)。

このため、馬の近位繋靭帯炎のうち、靭帯そのものの損傷は限定的で、肥厚した靭帯による神経組織の圧迫が疼痛の出処であった場合には、その部位の神経(外側掌側神経の深部枝)を切除することで、神経痛を緩和させて、跛行を良化させる効能が得られると考えられました。今回の研究では、繋靭帯の包膜切開は実施されていなかったことから、繋靭帯の除圧ではなく、純粋に神経痛を取り除くことで、臨床上の跛行症状を完治させることができた点が特徴であり、繋靭帯炎の病態解明の一助にもなると言えます。

この研究の術式では、全身麻酔下での背臥位にて、浅屈腱の外側縁に沿って皮膚切開され(副手根骨の下方1cmから外側副管骨頭の位置からやや遠位まで切開)、その奥にある腱膜を切開することで、副手根中手靭帯の遠位縁にある外側掌側神経が視認されました。そして、外側掌側神経より細くて奥へと走行している同神経の深部枝を見つけて、その枝が遠位側→近位側の順で切除されました。その後、腱膜、皮下織、皮膚を縫合することで閉創されました。

なお、上図の記号は下記を示しています。a:副手根中手靭帯、a’:外側副管骨頭、a”:副手根骨、b:深屈腱の副靭帯、c:外側掌側神経の深部枝、d:外側掌側静脈、e:外側掌側神経、f:深屈腱、g:浅屈腱。

この研究では、エコー画像での靭帯線維の損傷は認められなかったため、疼痛は靭帯炎ではなく神経痛が主因であると考えられ、神経の切除手術は、痛みを取るだけの対症療法ではなく、根治療法に当たるという理論立てが成されています。しかし、術前の診断麻酔では、四頭中の二頭は、掌側神経ブロックではなく、繋靭帯起始部の浸潤麻酔によって歩様改善が確認されていたことから、靭帯のほうが疼痛の出処であった可能性は否定できないと言えます(エコー画像では軽度な靭帯損傷は描出できないため)。このため、外側掌側神経の深部枝を切除した後にも、継時的なエコー検査を行なって、靭帯そのものの病態が進行しないかを監視するのが望ましいと言えそうです。

一般的に、馬の蹄踵部における神経切除術では(ナビキュラー病に対する掌側指神経切除術)、強い痛みを伴う神経腫(ニューローマ)の合併症が懸念されますが、今回の四症例では、同様な神経腫の発症は認められませんでした。一方、神経切除の際に、外側掌側動脈/静脈を損傷すると、重度な術中出血や、術後の腱/靭帯組織の虚血壊死の合併症が起こりうると考察されています。このため、施術に際しては、充分に広い切開と術野確保に努めて、この動静脈を視認した上で神経を切除することが重要だと言えます。

Photo courtesy of Vet Surg. 2013 Apr;42(3):296-301.

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