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オゾン化自己血液療法による馬の抗酸化作用

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一般的に、成馬の重度疝痛(内毒素血症)や子馬の敗血症では、過剰生成された活性酸素種(Reactive oxygen species: ROS)によって、血管内皮の損傷や血管透過性の亢進を生じて、多臓器不全を続発することが知られています。そして、ROSに対する馬体の防御機構には、酵素系としてはグルタチオンペルオキシダーゼ、非酵素系としてはビタミンCやビタミンEが挙げられます。一方で、近年のヒト医療の論文では、オゾン化自己血液療法(Ozonated autohemotherapy)によって抗酸化物質の生成が増加することが示唆されています[1-3]。

そこで、下記の研究では、10頭の健常な実験馬を用いて、運動負荷(30〜60分間/日)を毎日課した状態で、無治療での14日間、および、オゾン治療(オゾン化自己血液療法)を行なってからの14日間において、生物学的抗酸化能(BAP)、酸化ストレス度(d-ROMを指標として測定)、および、酸化ストレス指数(OSI)が測定されました。

参考文献:
Tsuzuki N, Endo Y, Kikkawa L, Korosue K, Kaneko Y, Kitauchi A, Katamoto H, Hidaka Y, Hagio M, Torisu S. Effects of ozonated autohemotherapy on the antioxidant capacity of Thoroughbred horses. J Vet Med Sci. 2016 Jan;77(12):1647-50.

結果としては、オゾン治療後の三日目と七日目のBAP値は、オゾン治療前、および、無治療の三日目と七日目と比較して有意に高くなっていました。このため、馬のオゾン化自己血液療法では、治療後の七日間にわたって抗酸化作用が向上されることが示唆されました。なお、d-ROM値とOSI値では、オゾン治療と無治療のあいだ、および、オゾン治療の前と後でも、有意な測定値の変化は認められませんでした。

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この研究の限界点としては、無治療とオゾン治療に同じ馬を用いており、その際に、全頭において、約一ヶ月の間隔で、無治療→オゾン治療の順番で実験が行なわれた(クロスオーバー試験になっていない)ことが挙げられています。つまり、抗酸化作用が向上した要因が、オゾン治療によるものか、一ヶ月間の運動負荷によるものかは不明であると言えます(運動負荷の結果、基礎代謝の向上、酸素運搬能の増強、抗酸化物質の貯蔵量増加などが起こって、抗酸化作用の向上に繋がった可能性がある)。このため、今後は、クロスオーバーの実験デザインによって、オゾン化自己血液療法の効能を明らかにする必要があると考察されています。また、BAP値の統計的に有意な上昇が、生物学的に有意な上昇であるのか否かを評価するため、今後は、実験モデルもしくは臨床症例への応用を通して、敗血症や筋損傷への治療/予防効果を示すような、十分なレベルの抗酸化作用が得られるかを検証する必要があると言えそうです。

過去の文献では、オゾン化自己血液療法によって抗酸化作用が向上するメカニズムとしては、核転写因子(Nrf2)、活性化T細胞核内因子(NFAT)、低酸素誘導因子1アルファ(HIF-1a)などが活性化される可能性が示唆されています[3]。しかし、実際に、これらのどの因子が作用しているのかは明らかにされておらず、今後の検討を要すると述べられています。残念ながら、今回の研究でも、これらの因子の測定は行なわれていませんでした。また、抗酸化作用による筋損傷への治療/予防効果を評価するには、ROSへの作用に加えて、脂質過酸化反応に対する効能も検証したほうが良いのかもしれません[4]。

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ヒト医療の論文では、オゾン化自己血液療法によって、多様な疾患に対する治療効果が期待されています。これには、皮膚病、筋疾患、腎疾患、悪性腫瘍、脳梗塞、及び、新型コロナ感染症などが含まれおり、馬の疾患においても、治療成績の蓄積と解析を通して、効能や副作用のエビデンスを示していくことが求められます。具体的には、手根骨骨折、ロドコッカス肺炎、去勢手術などにおける酸化ストレスについて解析が進んでおり[5-7]、これらに対するオゾン治療の効能が期待されるのかもしれません。一方、近年の研究では、血液をオゾン化することでヘモグロビンの構造変化を起こす副作用が示されており[8]、馬においても、赤血球の酸素運搬能に対する安全性を確認する必要があると言えそうです。

以上にように、馬に対するオゾン化自己血液療法は、治療効果と安全性の両方の面で、科学的エビデンスについて疑問符がつくと言えます。また、オゾン化自己血液療法は血液ドーピングに相当することから、日本国内の競馬事業および乗馬事業における公正確保の観点から、原則として禁止行為とされています。さらに、ヒトの透析治療の知見を見るかぎり、体外に取り出した血液を、また体内に戻すという行為そのものが、多様な合併症のリスクを伴うという点にも留意すべきと考えられます。加えて、ROSへの対処としては、近年の研究において、高濃度ビタミンCやセレンの投与等による抗酸化作用が実証されてきており、信頼性と安全性がより高い治療方針を見極めていくことが重要なのかもしれません。

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参考文献:
[1] Bocci VA, Zanardi I, Travagli V. Ozone acting on human blood yields a hormetic dose-response relationship. J Transl Med. 2011 May 17;9:66.
[2] Borrelli E, Diadori A, Zalaffi A, et al. Effects of major ozonated autohemotherapy in the treatment of dry age related macular degeneration: a randomized controlled clinical study. Int J Ophthalmol. 2012;5(6):708-13.
[3] Sagai M, Bocci V. Mechanisms of Action Involved in Ozone Therapy: Is healing induced via a mild oxidative stress? Med Gas Res. 2011 Dec 20;1:29.
[4] White SH, Johnson SE, Bobel JM, et al. Dietary selenium and prolonged exercise alter gene expression and activity of antioxidant enzymes in equine skeletal muscle. J Anim Sci. 2016 Jul;94(7):2867-78.
[5] Tsuzuki N, Sasaki N, Kusano K, et al. Oxidative stress markers in Thoroughbred horses after castration surgery under inhalation anesthesia. J Equine Sci. 2016;27(2):77-9.
[6] Tsuzuki N, Kanbayashi Y, Kusano K. Markers for oxidative stress in the synovial fluid of Thoroughbred horses with carpal bone fracture. J Equine Sci. 2019 Mar;30(1):13-16.
[7] Tsuzuki N, Maruko T, Takeyama A, et al. Evaluation of oxidative stress in foals with Rhodococcus equi infection-induced pneumonia for the judgment of therapeutic effect. J Vet Med Sci. 2023 Dec 6;85(12):1277-1280.
[8] Naderi Beni R, et al. A Novel Molecular Approach for Enhancing the Safety of Ozone in Autohemotherapy and Insights into Heme Pocket Autoxidation of Hemoglobin. ACS Omega. 2023 May 26;8(23):20714-20729.

参考動画:Large Auto-Hemotransfusion for Ozone Therapy


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