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馬の角膜潰瘍に対する多血小板血漿療法

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競走馬に好発する潰瘍性角膜炎(Ulcerative keratitis)は、眼疾患全体の約半数を占めており、重篤になった場合には視力障害の原因となり、長期的な休養と治療が必要になってきます。また、日本国内の競馬では、失明馬の出走が制限されているため、経済的な側面から見ても、角膜潰瘍を適切に治療して視力を維持することが重要であると言えます[1]。

一方、近年のヒト医療では、広義の再生医療の一つとして、症例馬自身の血液から血小板を遠心分離した多血小板血漿(PRP: Platelet-rich plasma)を局所投与する治療法が応用されています。そして、血小板に含有される成長因子や、血漿成分が持つコラゲナーゼ抑制作用によって、馬の角膜の治癒を促進できることが示されており[2]、さらに、下記の研究では、PRPの持つ抗菌作用が、細菌性の角膜炎の治療に役立つかどうかも検証されています。

参考文献:
Torres LEC, Florez CO, Oliveira JG, Vieira GD, Ribeiro IS, Keller KM, Leme FOP, Fantini P, Maranhão RPA. Antimicrobial Activity of Plasma Rich in Platelets (PRP) on the Ocular Microbiota of Healthy Horses from Minas Gerais: In Vitro Study. Vet Med Int. 2023 Aug 16;2023:2407768.

この研究では、八頭の成馬から採血をして、二回遠心分離法にてPRPが精製され、馬の眼組織の病原菌(六種類のシウリ菌[Staphylococcus sciuri])、および、一般病原菌(黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus])の培地に混和して、その後の18時間にわたる培養でのコロニー数(CFU)を計測することで、PRPの抗菌作用が評価されました。

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結果としては、陽性対照(300万CFU)に比較して、PRP添加された馬の眼組織の病原菌は、三時間の時点では明瞭に増殖抑制(六種類全てのシウリ菌で4万CFU以下)、六時間の時点では中程度な増殖抑制(五種類のシウリ菌で38万CFU以下)が見られました。また、三時間および六時間の時点での完全な増殖抑制は(0万CFU)、無希釈と二倍希釈のPRPにて確認されました。ただ、12時間と18時間の時点では、陽性対照と有意差の無いシウリ菌の増殖(300万CFU)が起こっていました。

このため、馬の潰瘍性角膜炎におけるPRP療法では、角膜組織の再生促進に加えて、眼組織の病原菌に対する抗菌作用も付与できることが示唆されました。PRPの抗菌作用は、含有される白血球や、血小板から遊離される殺菌性蛋白に由来しており、抗生剤に耐性を持つ病原菌(MRSA等)に対する抗菌作用も示されています[3]。ただ、PRPの抗菌作用は六時間以降は減退し、涙液によって希釈されると効果が弱まることから、充分な抗菌作用を得るためには、少なくとも、一日に3〜4回以上の点眼を要すると推測されました。

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この研究では、PRPによる抗菌作用は、眼組織の病原菌よりも、一般病原菌(黄色ブドウ球菌)において低いことが示され、その作用発現は六時間以降の時点で認められました。このため、黄色ブドウ球菌などの病原性の高い菌に対しては、PRPの抗菌作用が発現するまでに、比較的に長時間を要すると考えられました。また、今回の実験では、黄色ブドウ球菌の持つコアギュラーゼにより、PRPが凝固する現象も確認されています。このため、一般病原菌が関与してしまった難治性の角膜潰瘍に対しては、PRPの抗菌作用のみでは不充分で、抗生剤の点眼を併用するのが望ましいと考えられました。

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参考文献:
[1] 黒田泰輔. 競走馬の潰瘍性角膜炎について. -日本における競走馬医療の現状(III)-. 日獣会誌 2017;70:132-138.
[2] Rushton JO, Kammergruber E, Tichy A, et al. Effects of three blood derived products on equine corneal cells, an in vitro study. Equine Vet J. 2018 May;50(3):356-362.
[3] Lopez C, Alvarez ME, Carmona JU. Temporal Bacteriostatic Effect and Growth Factor Loss in Equine Platelet Components and Plasma Cultured with Methicillin-Sensitive and Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus: A Comparative In Vitro Study. Vet Med Int. 2014;2014:525826.


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