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山羊を同居させると馬のサク癖が減る?

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サク癖は、馬用語で「グイッポ」とも呼ばれ、固定された物体を前歯で咥えて、それを支点にして頭頚部を屈曲させながら空気を飲み込むような動作を指します。古典的には、馬が覚える悪癖だと片付けられてきましたが、近年の研究では、人間の精神医学でいう強迫性障害(Obsessive-compulsive disorder)によく似た「心の病気」であることが分かってきています。

ここでは、山羊と同居させる飼養管理法(Housed with a goat)による、馬のサク癖への影響を評価した知見を紹介します。下記の研究では、六頭の健常馬を用いて、単独で飼養(15日間)した後、山羊と同居させて飼養(15日間)して、その後、また単独での飼養(15日間)に戻して、この間、監視カメラで馬の様子を録画して、サク癖などの悪癖を行なった回数が計測されました。

参考文献:
Yildirim F, Yildiz A, Cengiz MM, Temel M, Kureksiz A. The effect of being housed with a goat on abnormal behavior in horses. Arch Anim Breed. 2023 Jan 4;66(1):9-16.

結果としては、一日当たりのサク癖の回数(中央値)を見ると、単独で飼養されている期間でのサク癖の回数(12回/日)に比べて、山羊と同居している期間でのサク癖の回数(4回/日)は有意に減少したことが分かりました。また、一日当たりの旋回癖の回数(中央値)を見てみると、単独で飼養されている期間での旋回癖の回数(1回/日)に比較して、山羊と同居している期間での旋回癖の回数(0回/日)は有意に減っていました。さらに、前肢で遊ぶ行動の回数(範囲)は、単独で飼養されている期間では0〜170回/日でしたが、山羊と同居している期間では、完全にゼロになっていました(有意な減少、中央値はいずれの期間も0回/日)。

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このため、馬と山羊を同居させることで、その馬がサク癖などの悪癖をする回数を減らせることが示唆されました。一般的に、馬は群れで生活している動物であるため、山羊と同居させることで、孤独感を減らして、他者との触れ合いの機会が提供されるため、サク癖などの悪癖を減らす結果に繋がったと考察されています。このような飼養管理法は、古典的にも、神経質な馬の気性を落ち着かせる工夫として経験則で実施されており、今回は、科学的な実験によって、その効能を裏付けるエビデンスが示されたと言えます。

この研究では、山羊と同居させた後、再び単独での飼養に戻した場合、後者の期間中におけるサク癖の回数(中央値)は3回/日となっており、最初に単独で飼養したときのサク癖回数(12回/日)よりも有意に減っていました。また、同様な所見は、旋回癖でも認められました。つまり、15日間にわたって山羊と同居して、孤独感が解消された馬では、その後に単独飼養に戻したとしても、暫くのあいだは、悪癖を減らす効能が持続することが示唆されました。ただ、今回の実験デザインでは、陰性対照群(単独飼養を45日間続けた馬)が設定されておらず、このため、山羊との同居による効能ではなく、悪癖が自然に減っていく現象が生じたか否かは、正確には評価できていませんでした。

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一般的に、馬の悪癖を抑制する方策としては、放牧や運動の時間を増やす、給餌回数を増やす、馬房内に鏡を取り付けるなどが挙げられます。また、馬のサク癖に関しては、ノドに装着させるサク癖バンドも頻用されています。今後の研究では、これらの悪癖対策と、山羊を同居させる飼養法を同一馬にて比較して、相対的な効能を検証する必要があると言えます。また、山羊を同居させることの弊害についても(馬と山羊の喧嘩による怪我、病原体の伝搬、盗食など)、より長期間にわたって評価する必要がありそうです。

この研究では、録画で評価された馬の悪癖のうち、前掻き、ボロ喰い、熊癖、壁を蹴る、物を舐める等については、山羊との同居でも有意には減っていませんでした。この理由は、明確には結論付けられていませんでしたが、元々これらの悪癖の回数が少なかったため、山羊を同居させることの効能が、明瞭には現れなかったことも考えられます。なお、実験馬6頭の性別(牡馬1頭、騸馬3頭、牝馬2頭)、および、品種(サラブレッドとハーフリンガーが3頭ずつ)が、悪癖の減少度合いに影響するかは解析されていませんでした(山羊は6頭ともメス)。

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