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冬場に馬の飲水量を維持させるには

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冬季になり、愛馬の飲水量が減ってくることに不安を抱いているホースマンの皆様も多いかもしれません。馬が飲水不足になると、体調不良になったり、疝痛を引き起こすこともあるからです。ここでは、冬場において馬に飲水させる方法について解説した知見を紹介します。

参考文献:
Managing Your Horse’s Water Intake in Cold Weather (The Horse. Dec 8th, 2023)

基本的に、馬には六つの異なる栄養素が必要です。これには、炭水化物、蛋白質、脂肪、ミネラル、ビタミン、および、水が含まれます。このため、適切な水分摂取は馬の健康にとって不可欠であり、他の哺乳動物と同様に、馬においても、正常な消化や体温調節などの生体機能を維持するために、十分な水分摂取が必須であると言えます。そして、馬の水和状態を監視して、適切な水分摂取を促すことは、飼養管理の重要な一面になります。



馬に必要な飲水量

馬の水分摂取を評価する前に、馬という動物における基本的な事項を理解することが大事です。オンタリオ州のトロイ・イクワインサービスの准教授であるステファニー・ウェイラン博士によれば、通常サイズの馬(454kg、1,000ポンド)の馬における維持水分摂取量は、1日あたり27〜54リットル(6〜12ガロン)以上になると言われています(この量は、気温や発汗、飼料内容によって多様になる)。ただ、この飲水量を常に摂取しない馬もいるため、自発的な飲水を促す方策を要することが多いと言えます。

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馬の水分摂取を増やす方法

馬が十分な水を飲むように促すためには、様々な戦略があります。水分摂取を促進するための一般的な方法には、①飲用水へのアクセスを最大化すること、②飲用水の状態を最適化すること、③喉の渇きを増やすこと、および、④摂食物の水分含有量を増やすこと、などが含まれるとウェイラン博士は述べています。



飲用水へのアクセスと状態を改善する方法

上記のうち、①および②に関しては、水桶や水飲み場を清潔に保つ、定時の給水を忘れない、冷たい水道水の代わりに温水を与える(一日に数回、水桶の水に、少量の熱湯を加えて回るのも一案です)、ウォーターカップの作動を毎日チェックする、凍結したらすぐに氷を除去する、などの一般的な飼養管理の徹底が大切です。それに加えて、放牧飼いの馬たちにおいては、上位の馬の行動が、下位の馬が定期的に水飲み場にアクセスするのを妨げていないかどうかを観察することも重要です。さらに、すべての馬が安全かつ簡単に水にアクセスできるよう、水飲み場周辺の足場が凍結していないを、小まめにチェックすることも重要になります。

研究によれば、馬は冬には、冷たい水よりも暖かい水を多く摂取することが示されています。そのため、飲用水が凍結しないように保つことが、便秘疝を予防するのに重要であるとウェイラン博士は述べています。特に、放牧飼いされている馬では、牧草地(およびその含水量)が冬には利用できず、その代わりに乾燥した干し草を食べているため、十分な飲用水を摂取することが必須になってきます。

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もし、夜間に馬の水槽が凍結して朝になって金槌で割らなければならない場合、馬の水和状態に大きなリスクを負っていることになる、と付け加えています。したがって、加熱された飲用水が利用可能であることが絶対に必要であるため、電熱ヒーターや加熱バケツは有用なツールとなります。しかし、これらのツールの動作不良で凍結してしまったり、故障で馬の感電を引き起こしたりする可能性があるため、日常的に確認する必要があるとウェイラン博士は述べています。また、毎日、飲用水を見ることで、水位が通常どれだけ下がるかを把握しやすく、飲水量の急激な変化を認識しやすくなります。



喉の渇きを促進させる方法

次に、③については、馬の飼料に塩を加えて喉の渇きを増すという方法があります。テキサス州にあるゲティ・イクワイン・ニュートリションのジュリエット・ゲティ博士は、十分な塩(ナトリウム)を提供することで、馬は喉が渇いていると感じ、飲用水を探し求めるでしょう、と述べています。馬に対しては、いくつかの方法で塩を提供することができます。通常サイズの馬では、四季を通じて、少なくとも1オンス( =約28.3グラム、大さじ2杯)の塩を毎日必要とする、とゲティ博士は述べています。ただし、これはあくまで、必要最小限の量であるため、冬季に渇水を促したり、夏季に発汗での損失分を補うなどのケースでは、この量の1.5倍程度の塩を飼料添加するのが良いと考えられます。

また、馬にナトリウムを補給するために岩塩を提供することも可能です。ただし、ゲティ博士とウェイラン博士の両者とも、馬が岩塩のブロック舐めることで、一日のナトリウム必要量を摂取するのは難しいと指摘しています。何故なら、岩塩ブロックはもともと牛用に作られており、牛のザラザラとした舌で削り取るような硬さとなっているためです。しかし、馬の舌は滑らかであり、舐めすぎると刺激を受ける可能性があるため、馬の飼料に塩を加えるほうが、遥かに良い方法であると述べられています。

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飼料の水分含有量を増やす方法

そして、④に関しては、馬の飼料に水を加えることで、日常の水分摂取量を増やすのに役立ちます。上記のように、塩を添加することで、馬の嗜好性が落ちてしまう場合にも、浸水させた乾草やヘイキューブを与えることは有用になります。ただし、ヘイキューブの浸水が不完全だと、外側が柔らかく中心が乾燥しているため、馬にとって喉詰まり(食道閉塞)のリスクがあるため、浸水には充分な時間を掛ける必要があるとも述べられています。なお、飼料を水に浸してから給餌することには、浸した水に栄養素が溶け出して損失する、咀嚼時間が短くなり唾液の嚥下量が少なくなる(唾液の持つ胃酸干渉や腸内潤滑作用が減ってしまう)、および、冬場ではエサが冷たくなって嗜好性が減退する可能性がある、などのデメリットもあることを考慮すべきと言えます。

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馬が十分に水を飲んでいるかの確認

飲用水への適切なアクセスを提供することは重要ですが、馬の水分摂取の状態を評価することも必要になります。水分摂取の監視において、最も信頼性のある外観的な指標は、口腔粘膜の滑らかな質感を確認することである、とウェイラン博士は述べています。馬の飼養管理者は、注意深く上唇の裏側に指を伸ばし、歯肉や口腔粘膜を触診し、それらの表面が滑らかであるか否かを確認します。このような、口腔粘膜の乾燥状態を評価することは、信頼性の高い馬体の水和状態の指標となるため、健康な時であっても、この確認を習慣にすることが重要です。

ただ、ウェイラン博士によれば、歯肉や口腔粘膜の触診で注意すべき点として、馬体が脱水している時であっても、馬が水を飲んだ直後には、粘膜が濡れていて、指の感触が滑らかに感じることがある、という警鐘が鳴らされています。もう一つ、一般的な水和状態のテストとしては、皮膚つまみ試験があり、これは、馬の首や肩の皮膚の一部をつまんで、放したあと、2秒以内に元の位置に戻るかどうかを確認するものです。皮膚つまみ試験は、水和状態の評価に有用であると言えますが、年齢や削痩などの要因によって、皮膚の弾力性はかなり大きく変化するため、若齢馬と老齢馬の間にはより多くの変動が生じうる、とウェイラン博士は述べています。

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これらの試験法以外でも、馬がどれくらい渇水しているかも、馬体の水和状態を確認する一助になります。古来より、『馬に水を飲ませることはできない』という言葉がありますが、もし飲水をしたら、その馬が水を必要としていたと知ることができます。もし、塩分が足りないために、喉の渇きのメカニズムが不整になっているなら、馬が好むエサやオヤツを与え、その中に塩を加えつつ、近くに水を置いてみることで、馬自身が本当に水を欲していないのかを確認することが出来るのです。



冬場に馬に飲水させるために重要なこと

一般的に、飲用水へのアクセスを最大化し、適切な品質の水を提供することは、馬の健康にとって極めて重要です。冬季には温水を提供し、飲用水を清潔に保ち(細菌の増殖や藻の発生を防ぐ)、それを定期的に確認することが水の摂取を増やすのに有用です。それに加えて、放牧飼いの場合には、馬群内の全ての馬が容易に飲用水にアクセスできるようにしておくことが重要です。

冬場に馬の飲水量が減ることは、健康維持や疝痛予防のために大切ですが、これさえ行なっておけば問題無い、という魔法のような方法はありません。やはり、馬の飲水量、馬体の水和状態、および、水桶や水飲み場の状態を小まめに確認して、その変動に常に気を配っておくことが、馬の飲水量を適切に管理する唯一の方法なのかもしれません。

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