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馬の腹水検査における好中球細胞外トラップ

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腹水検査は、疝痛などの馬の腸管疾患での診断法の一つとして実施されており、罹患臓器のすぐ傍にある体液の性状を評価できる点で、多様な腹腔内病態の有無や重篤度を診断する一助になると言われています。

ここでは、腹水検査および滑液検査において、好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular trap: NET)を視認することで、細菌性の炎症病態を診断する手法を検証した知見を紹介します。下記の研究では、豪州のチャールズ・スタート大学の獣医病院において、腹水(四検体)および滑液(九検体)に含有される好中球を免疫蛍光染色することで、NET形成の評価が実施されました。

参考文献:
Birckhead EM, Das S, Tidd N, Raidal SL, Raidal SR. Visualizing neutrophil extracellular traps in septic equine synovial and peritoneal fluid samples using immunofluorescence microscopy. J Vet Diagn Invest. 2023 Nov;35(6):751-760.

一般的に、NET形成は、細菌や内毒素によって活性化された好中球が、クロマチンと抗菌蛋白を能動的に放出する現象を指しており、貪食能および顆粒放出と並んで、好中球が持つ第三の防御機構として、多様な病態との関連性が明らかにされてきています。馬の好中球でも、黄色ブドウ球菌や大腸菌に触れることで、NET形成が見られることが示されており[1]、細菌感染が起きているのを示唆する病理学的所見として、診断の一助になると考えられています。

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結果としては、腹水および滑液に含まれる好中球では、シトルリン化ヒストンを免疫蛍光染色することで、NET形成の構造物を鏡検下で視認できることが示され(下写真の緑色の染色物)、細菌性炎症における腹水や滑液では、NET形成が100%の検体で確認されたのに対して、非細菌性炎症における腹水や滑液では、NET形成が見られた検体はありませんでした。このため、細菌感染を伴う腹膜炎や滑膜炎においては、穿刺採取した腹水や滑液の沈査を免疫染色して、NET形成を示している好中球を視認することで、感染病態の存在を確認する一助になると考察されています。

通常、感染性の腹膜炎や滑膜炎では、細菌培養は陰性を示すことが殆どで(細菌は漿膜内や滑膜内に埋没して増殖しているため)、また、好中球数の増加やその分画増加、左方変位などが認められます。しかし、細菌感染の初期病態では、このような病理的所見は不明瞭なステージに留まるため、細菌感染が悪化する前の時点では、体液検査での臨床病理学的な確定診断は難しいと言えます。それに対して、NET形成という現象は、単一の好中球が細菌に曝露したことの証拠として視認できるため、軽度または初期病態の細菌感染の存在を確認するのに役立つと考えられています。

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過去の文献では、ヒト医療における感染性腹膜炎が、NET形成の増加と関連することが報告されており、消化管の穿孔や細菌性腹膜炎の証拠として、NET形成の視認が役立つというデータが示されています[2]。また、齧歯類の疾患モデルでは、NET形成をブロックすることで、生存率を向上できるという知見も示されています[3]。このため、今後の研究では、馬の腹水においても、汎用性の高い免疫染色をするための蛍光抗体を選び、簡易かつ迅速に腹水沈査をNET染色できるシステムを確立することで、疝痛馬の腹水サンプルの結果から、消化器疾患の重篤度の指標としたり、開腹術の判断基準や、予後判定の指標として応用できるかを検証していく必要があると言えそうです。

この研究では、腹水および滑液のサンプルにおいて、NET形成を認めた好中球のパーセントと、好中球数の値には有意な相関は認められませんでした。その理由としては、NET形成そのものはサイトカインやキモカインを抑制して、好中球の集積を減退させることが関与していたと推測されています。しかし、今回の研究のサンプル数は少なく、細胞外環境の多様性や、原因となった病原体の違い、及び、元々の好中球数の個体差などが一因となった可能性は否定できず、より検体数の多い後追い研究を要すると考察されています。また、NETのパーセント計算の分母となる「好中球数」は、実際の細胞数ではなく、細胞核の数であったため(より正確にカウントできるため)、NET形成していた好中球の割合が過小評価されたことも考えられます。

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Photo courtesy of J Vet Diagn Invest. 2023 Nov;35(6):751-760.

参考文献:
[1] Rebordao MR, Carneiro C, Alexandre-Pires G, et al. Neutrophil extracellular traps formation by bacteria causing endometritis in the mare. J Reprod Immunol. 2014 Dec;106:41-9.
[2] Sun S, Duan Z, Wang X, et al. Neutrophil extracellular traps impair intestinal barrier functions in sepsis by regulating TLR9-mediated endoplasmic reticulum stress pathway. Cell Death Dis. 2021 Jun 11;12(6):606.
[3] Biron BM, Chung CS, O'Brien XM, et al. Cl-Amidine Prevents Histone 3 Citrullination and Neutrophil Extracellular Trap Formation, and Improves Survival in a Murine Sepsis Model. J Innate Immun. 2017;9(1):22-32.

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