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若齢馬の後膝の骨軟骨症と将来の競走能力

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若齢馬の病気を診療するときには、成馬になったときのパフォーマンスへの影響も考慮する必要があります。一般的に、馬での後膝の骨軟骨症(Stifle osteochondrosis)では、内顆のボーンシスト、および、外側/内側滑車の離断性骨軟骨炎(OCD)の病態を取りますが、この二つでは、治療法や予後に差異があります。

ここでは、若齢馬の大腿膝蓋関節のOCDにおける病態把握と、将来の競走能力への影響を評価した知見を紹介します。下記の研究では、米国のカンザス州立大学において、2010〜2016年に掛けて、一歳又は二歳時の競売にて、X線検査で外側/内側滑車OCDが確認された429頭(OCD罹患馬)と、1,042頭の異母兄弟もしくは757頭の年齢/性別適合馬(対照馬)を調査対象として、OCD病態の発生状況、および、その後の競走成績の解析が行なわれました。

参考文献:
Sloan PB, White B, Santschi EM. Racing performance of juvenile Thoroughbreds with femoropatellar osteochondrosis at auction: A retrospective case-control study. Equine Vet J. 2024 Jan;56(1):69-75.

結果としては、競走馬としての生涯出走回数(平均値)を見ると、OCD罹患馬(2.27回)の方が、対照馬(2.36〜2.38回)よりも有意に出走が少ないことが分かりました。また、生涯入賞回数(平均値)を見ても、罹患馬(1.37回)の方が、対照馬(1.51回)よりも有意に少なくなっていました。なお、これらの指標の中央値は、平均値より明瞭に多い傾向にあり、データの歪度が高いことが疑われます。

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この研究では、OCD罹患馬における出走回数や入賞回数の減少は、統計解析の上では有意であるものの、実際の数値としては、軽微な差異に留まっていると解釈できます。このため、若齢馬における膝蓋関節のOCDでは、将来的な競走能力への悪影響は最小限であると結論付けられています。また、各年齢ごとでの出走や入賞の回数を見ても、同様な傾向が示され、OCD罹患馬のほうが顕著に競走能力に劣るという年齢層も認められませんでした。

この研究では、X線画像上での病変サイズを計測しており(上写真、左右肢と内外の滑車に分けて計測)、OCD病変の長さは22.9〜24.3mmで、深さは5.0〜6.1mmとなっていました(いずれも群内の平均値)。このうち、外側滑車における病変の長さで30mmを越えた馬はおらず、このため、幅3cm以下の外側滑車のOCD病変であれば、競走能力には殆ど悪影響を与えない、という考察がなされています。また、X線検査の所見として、骨片形成を認めた馬の割合は22〜27%で、複数の骨片形成を認めた馬の割合も11.7〜12.6%に及んでいました(外側滑車のデータのみ)。

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この研究では、外側滑車における骨片形成では、二歳時での出走数に対して、有意な負の相関を示すことが分かりました(相関係数[r]=-0.20、右後肢のデータのみ)。また、外側滑車の骨硬化症の存在は、生涯での出走年数に対して、有意な負の相関を示していました(r=-0.14)。さらに、外側滑車の病変に対する関節鏡での外科的掻爬術では、生涯での出走年数に対して、有意な正の相関を示すことも分かりました(r=0.16、左後肢のデータのみ)。ただ、これらの相関では、相関係数の二乗は0.01〜0.04になるため、つまり、出走回数や出走年数の増減に対して、病変や手術の有無が与えた影響の度合いは数%に過ぎない、という解釈にもなります。

この研究では、OCD罹患馬の年齢は、競走能力に悪影響を及ぼす有意な要因にはなっていませんでした。ただ、過去の文献では、関節鏡によって外側滑車のOCD病変を除去/掻爬することで、競走能力の向上が見られる割合は、年齢がより上の個体において高くなる、というデータが示されており[1]、その理由として、外側滑車のOCD病変は、若齢期には自然治癒するためであると考えられます[2]。このため、今後の研究では、手術無しでも外側滑車のOCDの治癒が期待できる年齢を、より多いサンプル数で詳細に調査する要ありと考察されています。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2024 Jan;56(1):69-75.

参考文献:
[1] Clarke KL, Reardon R, Russell T. Treatment of osteochondrosis dissecans in the stifle and tarsus of juvenile thoroughbred horses. Vet Surg. 2015 Apr;44(3):297-303.
[2] Dik KJ, Enzerink E, van Weeren PR. Radiographic development of osteochondral abnormalities, in the hock and stifle of Dutch Warmblood foals, from age 1 to 11 months. Equine Vet J Suppl. 1999 Nov;(31):9-15.

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このエントリーのタグ: 関節炎 競馬 調教

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