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馬の文献:蜂窩織炎(Markel et al. 1986)

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「競走馬でのコアグラーゼ陽性スタフィロコッカス属菌による蜂窩織炎:1975~1984年の九症例」
Markel MD, Wheat JD, Jang SS. Cellulitis associated with coagulase-positive staphylococci in racehorses: nine cases (1975-1984). J Am Vet Med Assoc. 1986 Dec 15;189(12):1600-3.

この症例論文では、馬の蜂窩織炎に対する治療効果や予後を検証するため、米国のカリフォルニア大学デービス校の獣医病院において、1975~1984年にかけて、蜂窩織炎の診療のために入院した競走馬のうち、コアグラーゼ陽性スタフィロコッカス属菌が分離された九頭の医療記録の回顧的解析が行なわれました。

この研究では、蜂窩織炎の罹患馬に対する入院時での治療としては、抗生物質の全身投与(6/9頭)、水冷療法(9/9頭)、および、圧迫バン装着(9/9頭)が含まれ、一次診療での抗生剤療法に不応性であったことが理由となって(平均四日間、範囲3~7日間)、二次病院への搬送が判断されていました。入院時の所見としては、発熱(9/9頭)、頻脈(5/9頭)、高フィブリノーゲン血症(7/9頭)、白血球増多症(7/9頭)などが認められ、罹患肢に関しては、重度跛行(9/9頭)、広範な重度皮下浮腫(9/9頭)、皮膚欠損(5/9頭)などが認められました。

この研究では、蜂窩織炎を発症した九頭のうち、後肢を罹患したケースが明瞭に多く(6/9頭)、平均年齢は3.7歳(範囲2~6歳)となっていました。また、性別は、牝馬が五頭、牡馬が二頭、騙馬が二頭でした。そして、細胞培養で分離されたスタフィロコッカス属菌において、耐性を示した抗生物質としては、ペニシリン(4/9頭)、テトラサイクリン(6/9頭)、カナマイシン(4/9頭)、アミカシン(3/8頭)、クロラムフェニコール(2/9頭)などが挙げられました。なお、二次病院での治療薬としては、Kペニシリン+ゲンタマイシン(4/9頭)、Kペニシリン単独(2/9頭)、セファゾリン(2/9頭)、オキサシリン(1/9頭)等が選択されていました。

この研究では、蜂窩織炎の治療中に発生した合併症として、広範囲の皮膚欠損(5/9頭)、罹患肢の蹄葉炎(2/9頭)、対側肢の蹄葉炎(4/9頭)、骨髄炎と腐骨形成(2/9頭)、菌血症(1/9頭)などが認められました。その結果、治療に不応性を示して安楽殺となった症例が五頭に及んでおり(死亡率は56%)、その要因としては、蹄葉炎が四頭で、重度皮膚欠損が一頭となっていました。そして、治療が奏功して退院できた四頭においても、中程度な皮下浮腫の遺残(1/4頭)、および、慢性の軽度跛行(1/4頭)の長期的な副作用が残ってしまったことが分かりました。そして、退院できた四頭のうち、レース復帰を果たしたのは一頭だけとなっており、あとの三頭のうち、二頭は乗馬転用、一頭は繁殖転用されていました。

このため、馬の蜂窩織炎においては、初診後の抗生剤療法に不応性を示して、難治性の経過を取ってしまった場合には、致死率が五割以上に及び、たとえ生存しても、発症前の運動能力に回復できない確率が高いことが示唆されました。このため、初期治療への反応性を慎重に見極め、経過が芳しくなければ、滲出液や排膿液などの細菌培養を介して、感受性のある抗生物質へ切り替えるなどして、深刻な病態悪化を防ぐことが重要であると考えられました。また、予後不良の理由として最も多いのは、対側肢の負重性蹄葉炎であることが報告されており、適切な装蹄療法や疼痛管理が必要であることが再確認されました。

この論文は、1980年代の報告であり、エコー検査による画像診断手法が一般的でなかった時代のものであるため、皮下膿瘍が早期発見できなかったことから、半数以上の症例(5/9頭)において皮膚欠損を継発していたと推測されます。また、この論文が出された時代では、抗生物質の局所肢灌流療法(難治性の細菌感染症に有用)があまり広まっていなかったと推測されるため、基本的に、筋注又は静注しか投与経路が無く、罹患肢の皮下感染の制御に長時間を要した(=蹄葉炎や腐骨などの合併症を続発しやすかった)と考えられました。

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