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馬の輸送におけるホースマンの怪我

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馬という動物にとって、馬運車での輸送はストレスの多い行為であるため、怯えたり興奮することで、人馬の事故や怪我に繋がる可能性もあります。ここでは、馬の輸送におけるホースマンの怪我について調査した知見を紹介します。下記の研究では、ニュージーランドのマッセ―大学の獣医病院において、一頭以上の馬を所有するホースマン(1,067人)に対して聞き取り調査が行なわれ、馬の輸送に関連したヒトの怪我の発生状況の調査、および、オッズ比(OR)の算出によって危険因子の評価が実施されました。

参考文献:
Riley CB, Padalino B, Rogers CW, Thompson KR. Human Injuries Associated with the Transport of Horses by Road. Animals (Basel). 2023 May 10;13(10):1594.

結果としては、馬の輸送に関連した怪我を負ったことのあるホースマンは10.5%(112/1,067人)に及ぶことが分かりました。また、これらの怪我をした時点におけるホースマンの年齢は、中央値で37歳で、その時点での馬の取り扱いの経験年数は、中央値で21年間となっていました。また、怪我の発生した状況としては、馬の積み込みが35%(39/112人)、および、馬の積み下ろしが29%(33/112人)と顕著に多くなっており、次いで、輸送の準備が12%(13/112人)、輸送の最中が5%(6/112人)となっていました。そして、これらのホースマンが怪我をした事象では、馬のほうの怪我も併発していたケースは14.3%(16/112人)でした、

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この研究では、馬の輸送におけるホースマンの怪我としては、手の怪我が46%と最も多いことが分かり、次いで、足の怪我(25%)、腕の怪我(17%)、顔や頭の怪我(15%)となっていました。また、これらの怪我のうち、複数の状況で怪我を負ったホースマンが40%に達しており、体の複数箇所の怪我を負ったホースマンも33%に及んでいました。そして、これらの怪我の治療に要した期間は、中央値で七日間でしたが、最長では、怪我の完治までに丸一年を要したホースマンも含まれていました。

このため、今回の研究データから見て、ホースマンの十人に一人は、馬の輸送に関する怪我を負った経験を持っており、十分に留意すべき危険性の高さであると考察されています(たとえ、20年以上もの馬の取り扱い経験があった場合でも)。そして、これらの怪我の防止のためには、特に、馬の積み込みと積み下ろしに際して、必ず手袋を装着することが重要である、ということを再確認させるデータが示されたと言えます。また、馬の輸送に関連する怪我の15%(七回に一回)は、頭部の怪我であったことから、ヘルメットも装着しておくべきであると言えそうです。

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この研究では、馬の輸送におけるホースマンの怪我では、男性を比較対象とした場合、女性のほうが怪我をする危険性が半分近くも低い(OR=0.52)ことが分かりました。ただ、この理由については、明確には結論付けられておらず、女性のホースマンの方が、馬の取り扱いに長けていたのか否かは分かりませんでした。ただ、一般論として、気性が荒くて取り扱いの難しい馬では、男性が率先してハンドリングしていた、という可能性は否定できないのかもしれません。なお、男性と女性のホースマンで、馬の取り扱い経験の年数に差異があったかは報告されていませんでした。

この研究では、馬のタイプ別に見ると、ポニーを比較対象とした場合、競走馬の輸送におけるホースマンの怪我の危険性は、二倍以上も高い(OR=2.02)ことが分かり、さらに、スポーツ乗用馬の輸送におけるホースマンの怪我の危険性は、三倍近くも高い(OR=2.93)というデータが示されています。このような差異が生まれた要因は、明確には結論付けられていませんでしたが、少なくとも、若齢で神経質な馬が多い傾向のある競走馬において、必ずしも輸送関連の怪我が顕著に多い訳ではない(乗用馬に比較して)、というデータが示されました。なお、馬産業の種類、馬を輸送する頻度、馬運車のサイズなどは、殆どのOR信頼区間に1が含まれ、多因子解析で有意性が消失していたため、それほど重要な危険因子ではないと考えられました。

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