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野外走行の総合馬における不整脈

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一般的に、突然死(サドンデス)とは、健康な生活を営んでいた個体が急に死亡する現象を指します。幸いにも、ヒトでも動物でも、極めて稀な事象ではありますが、治療は間に合わないため、如何に未然に防ぐかが鍵となります。このため、馬の突然死においても、その病因の特定、および、発生に寄与する危険因子を解明して、突然死の予防を図ることが重要になってきます。ここでは、総合馬術での野外走行(Cross-country phase of eventing)における不整脈(突然死の病因の一つ)について調査した知見を紹介します。

下記の研究では、国際馬術連盟(FEI)または全米総合馬術協会(USEA)が開催した競技会において、出場した競技馬の持続的心電図検査を実施して、競技前、競技中、及び、競技後における、早期脱分極(Premature depolarization)に繋がるような心拍リズム不整の頻度や性状が測定・解析され、また、オッズ比(OR)の算出による危険因子の同定が試みられました。

参考文献:
Durando MM, Slack J, Birks E, Belcher C, Kohn C. Premature depolarisations in horses competing in United States Eventing Association and Federation Equestre Internationale-sanctioned 3-day events. Equine Vet J. 2024 Jan;56(1):59-68.

結果としては、心電図で早期脱分極が確認されたのは、野外走行した競技馬の56%(42/75頭)に及んでおり、このうち、高いクラスの競技においては、早期脱分極が発生する危険性が、17倍以上も高い(OR=17.5)ことが示唆されました。このため、深刻な不整脈に繋がりかねない早期脱分極を呈する馬は、野外走行する競技馬の半数以上にも及んでおり、心電図などで心負荷を監視して、適切な予防対策を取ることが重要であると考えられました(特に、運動負荷がより大きい高いクラスの競技会において)。

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この研究では、心拍数が毎分199回以上の頻脈を起こしている時間が、一分間増すごとに早期脱分極を発生する危険性が約1%増加する(OR=1.01)ことも示されています。つまり、重度な頻脈(>199bpm)の継続時間が10分間になると、早期脱分極のリスクが約一割高くなる(1.01の10乗は1.10)という解釈が成り立ちます。このため、今回の研究で検証されたような、競技中の心電図を測定する機器を汎用して、突然死のリスクが高そうな個体を、事前に発見できるかを評価するのが有用だと言えそうです。

この研究では、安静時の心電図にて不整脈が検知された馬では、野外走行からの回復期に不整脈を呈する危険性が三倍以上も高い(OR=3.5)というデータも示されました。このため、野外走行の競技前に、スクリーニングとして心電図を実施したり、もしくは、野外走行の完走後の回復期においても、網羅的な心電図検査で、リスクの高い個体を早期発見するのも、有益な試みなのかもしれません。

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一般的に、スポーツ乗馬の競技のなかでも、総合馬術の野外走行においては、強い運動負荷が長時間にわたって課され、発汗による脱水や電解質損失も起き易いため、不整脈から致死的な心不全を続発する危険性が高いと考えられます。過去の文献では、競馬における致死的な心不全に関しては、馬の要因やレースの要因など、多様な危険因子が調査・解析されているため、今後は、野外走行の競技馬における不整脈についても、よりサンプル数を増やして、その発生や重篤度に関与する危険因子を解明することに努めていくべきだと考えられます。

Photo courtesy of J Vet Intern Med. 2016 Jul;30(4):1253-9.

関連記事:
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