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子馬が怪我しやすい放牧のやり方

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秋季から冬季に入ると、乳離れも完了して、子馬を放牧飼養している牧場が多いかもしれません。ただ、子馬の放牧のやり方によっては、怪我や運動器の疾患を誘発してしまう危険性があります。そこで、下記の研究では、子馬の放牧方針と怪我の関係性を検証するため、英国の六箇所の繁殖牧場において、子馬の誕生から退厩までの飼養管理記録と、その間の怪我や故障の発生状況が調査されて、ハザード比(HR)の算出による危険因子の評価が行なわれました。

参考文献:
Mouncey R, Arango-Sabogal JC, de Mestre A, Verheyen KKL. Associations between turn out practices and rates of musculoskeletal disease and injury in Thoroughbred foals and yearlings on stud farms in the United Kingdom. Equine Vet J. 2023 Dec 26. doi: 10.1111/evj.14038. Online ahead of print.

結果としては、子馬の放牧時間(一日当たり)の平均値を七日間ごとで計算して、①1~8時間/日、②9~23時間/日、および、③24時間/日という三種類に分類したところ、③に比べて②のほうが、運動器の怪我をする危険性が4.6倍も高い(HR=4.62)ことが分かりました。通常、放牧のやり方として、常に終日放牧されている場合には③、常に日中放牧されている場合には①になるため、②の群に含まれた子馬は、七日間のあいだで、終日放牧と日中放牧をコロコロ変えていると考えられました。このため、放牧する時間帯や長さを頻繁に変更すると、怪我をするリスクが五倍近くも高くなることが示唆されています。その理由としては、放牧方針が頻繁に攪乱されることで、子馬が興奮して疾走したり、ルーチンが崩されて子馬の落ち着きが無くなり、他の子馬との喧騒を起こす、などの事象が生じ易かったことが挙げられています。

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この研究では、四ヶ月齢における放牧場の広さが1エーカー増すごとに、六~十八ヶ月齢における運動器の怪我を起こすリスクが24%減少する(HR=0.76)というデータも示されました。つまり、乳離れ直後の時期に、より広い面積で放牧することで、一歳半齢までの期間での怪我のリスクを減らせることが示唆されています。この理由としては、広い放牧地では、走り回ったときに急回転や急停止する回数が減って、健常な運動器の発達が促進すること、および、他の馬たちとの間で、お互いの「パーソナルスペース」を侵害される頻度が減るため、喧騒や交錯による怪我の確率が下がることなどが挙げられています。なお、サラブレッドの一頭あたりの放牧地面積は、0.5~2ヘクタール(ha)と言われており(日本軽種馬協会指針)、0.5haでの放牧に比べて、2haの放牧では、怪我のリスクが64%も下がる(0.5haと2haの差は約3.7エーカーに相当。0.76の3.7乗を計算すると0.36となる)という解釈ができます。

一般的に、子馬における放牧は、単に牧草を摂食する場ではなく、自発的な運動を実施する機会であることから、放牧を正しく行なうことは、運動器の発達、および、怪我や疾患の予防のために重要であることが知られています。過去の文献では、子馬の時点での運動量増加により、骨や腱のサイズや強度を向上させて、成長後の故障リスクを減らせることが示唆されている一方で[1,2]、運動量が過剰または不足すると、骨や軟骨が損傷しやすくなるという知見もあります[3]。また、子馬に好発する骨軟骨炎に関しては、広すぎる放牧場や平らで無い地面、舎飼いと放牧の繰り返し、同時に放牧する馬群の頻繁な変更等が、画像上の骨軟骨炎の重篤度を上げてしまうことも報告されています[4,5]。なお、今回の研究における子馬の運動器の怪我/病気の頻度は、子馬100頭あたり、一ヶ月ごとに5.3症例となっており、相当数の怪我や疾患が発生している状況が示唆されました。

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この研究では、子馬の月齢に応じて、怪我や疾患の発生数に変動が見られており(上図)、生後8~9ヶ月齢(220~280日齢)において、運動器の怪我のリスクが上昇する傾向が認められました。この理由としては、通常の春生まれの子馬では、生後8~9ヶ月齢が十月から二月にあたり、放牧地で摂食できる牧草が最も少なくなる季節に相当するため、子馬たちが空腹でイライラして、よりアグレッシブな行動を取ることが多かったためと推測されています。このため、放牧地への適切な飼料追加を行ない、子馬が空腹で過ごす時間を短くすることで、怪我の発生率を抑えることができると考察されています。なお、上図では、青線が1~8時間/日、赤線が9~23時間/日、および、緑線が24時間/日(順に、前述の①~③に相当)という子馬の放牧時間を示しており、やはり、②の場合における怪我の発生率が、①や③よりも明瞭に高い傾向が見て取れます。

Photo courtesy of Equine Vet J. 2023 Dec 26. doi: 10.1111/evj.14038.

参考文献:
[1] Kasashima Y, Smith RK, Birch HL, et al. Exercise-induced tendon hypertrophy: cross-sectional area changes during growth are influenced by exercise. Equine Vet J Suppl. 2002 Sep;(34):264-8.
[2] Firth EC, Rogers CW, van Weeren PR, et al. Mild exercise early in life produces changes in bone size and strength but not density in proximal phalangeal, third metacarpal and third carpal bones of foals. Vet J. 2011 Dec;190(3):383-9.
[3] van Weeren PR, Barneveld A. Study design to evaluate the influence of exercise on the development of the musculoskeletal system of foals up to age 11 months. Equine Vet J Suppl. 1999 Nov;(31):4-8.
[4] Lepeule J, Bareille N, Robert C, et al. Association of growth, feeding practices and exercise conditions with the severity of the osteoarticular status of limbs in French foals. Vet J. 2013 Jul;197(1):65-71.
[5] Lepeule J, Bareille N, Robert C, et al. Association of growth, feeding practices and exercise conditions with the prevalence of Developmental Orthopaedic Disease in limbs of French foals at weaning. Prev Vet Med. 2009 Jun 1;89(3-4):167-77.

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