馬の病気:白筋病
馬の運動器病 - 2013年09月11日 (水)

白筋病(White muscle disease)について。
セレニウムおよびビタミンEの欠乏症(Selenium/Vitamin-E deficiency)に起因して、栄養性筋変性(Nutritional myodegeneration)を起こす疾患で、一歳齢以下の子馬(特に二ヶ月齢以下の幼馬)に好発します。セレニウム欠乏では、セレン含有タンパク質(Selenoprotein)の不足によって、グルタチオン過酸化酵素(Glutathione peroxidase enzyme)を介してのサイロキシン(Thyroxin: T4)からトリヨードサイロニン(Tri-iodothyronine: T3)への転換(Conversion)が阻害され、ビタミンE欠乏では、水素過酸化物(Hydrogen peroxide)、脂質過酸化物(Lipoperoxide)、超酸化物(Superoxide)等のフリーラディカル(Free radicals)の除去能が損なわれ、これらの作用によって細胞膜および蛋白質の破損(Cell membrane and protein destruction)を生じて、筋繊維変性に至ることが病因(Etiology)であると考えられています。
牧草中のセレニウム含有量の減少は、米国では北西部、北東部、東海岸などの州に多く見られ、酸性土壌(Acid soil)および火山性土壌(Volcanic soil)等の、セレニウムの乏しい土質や、硫黄性肥料(Sulfur-containing fertilizer)の使用によって、植物中へのセレニウム取込(Selenium uptake by plants)および生体中のセレニウム吸収(Selenium absorption)が阻害されることが要因として挙げられています。ビタミンE摂取量の減少は、低質の牧草(Poor-quality hay)、藁(Straw)、根菜(Root crops)、プロピオン酸(Propionic acid)によって加工のされた穀物、長期保存されていた穀物(Grain crops stored for extended periods)、等を給餌されている馬に起こり易いことが示唆されています。
白筋病は、心臓性病態(Cardiac form)と骨格性病態(Skeletal form)の二つに分類され、心臓性病態においては、心筋不全(Myocardiac decompensation)による急性発現性(Acute onset)の呼吸困難(Respiratory distress)、抑鬱(Depression)、肺浮腫(Pulmonary edema)、重篤な虚弱性(Profound weakness)、起立不能(Recumbency)を呈して、症状発現後の24時間以内に致死性不整脈(Fatal arrhythmia)によって死亡する症例が殆どであることが報告されています。一方、骨格性病態においては、虚弱性、嗜眠(Lethargy)、強直歩様(Stiff gait)、起立不能などの症状を呈し、体重支持筋郡(Supporting muscle group)の腫脹や圧痛(Swelling and pain on palpation)を示す場合もあります。筋変性が横隔膜(Diaphragm)や肋間筋(Intercostal muscles)に及んだ症例では呼吸困難が認められ、舌筋(Tongue muscle)の変性を併発した場合には、嚥下困難(Dysphagia)を起こす事もあります。
白筋病の症例における血液検査では、CK、AST、LDH等の血清濃度が極めて顕著に上昇する所見(>1000 IU/L)によって、起立不能を呈する他の疾患との鑑別診断(Differential diagnosis)が可能な場合もあります。また、尿検査によって筋色素血症(Myoglobinuria)が見られたり、血液検査によって高カリウム血症(Hyperkalemia)、高リン血症(Hyperphosphatemia)、低ナトリウム血症(Hyponatremia)、低クロール血症(Hypochloremia)などが確認される症例もあります。循環血液中のセレニウムおよびグルタチオン過酸化酵素の濃度は、総血液検体(Whole blood sample)によって計測され、また、ビタミンE濃度は、血漿検体(Plasma sample)によって計測が行われますが、異常低値を適切に探知するためには、ミネラル補給療法が開始される前に検査を行うことが重要です。また、ビタミンE濃度は日内変動が比較的大きいため、複数検体による測定値に基づいた診断を行うべきであるという警鐘が鳴らされています。
骨格性病態の白筋病の治療では、セレニウムおよびビタミンEの補給療法(Supplemental therapy)が行われ、筋肉内投与または皮下投与が行われるセレニウムとビタミンEの合同製剤では、ビタミンEの補給が不十分である可能性が示されており、これにビタミンEの飼料補給を併行して実施することが推奨されています。心筋や骨格筋に対するセレニウムおよびビタミンEの浸潤は速やかに起こるため、可逆性の病態(Reversible condition)を呈する症例においては、比較的短期間(三週間以内)で臨床症状の改善(Improvement in the clinical signs)が見られることが示唆されています。また、起立不能に陥った羅患馬における補助療法(Supportive therapy)としては、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与と全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)による、二次性肺炎(Secondary pneumonia)や感染性褥瘡(Infectious decubital sores)の予防が試みられます。
白筋病の好発地域における疾病の予防方策(Preventive aids)としては、一歳齢以下の子馬に対して良質の乾草を給餌する事に加えて、セレニウムおよびビタミンEの飼料補給、および、六ヶ月おきの血液検査を行うことが推奨されています。また、出産後の母馬に対してセレニウムの飼料添加を行うことで、泌乳期間中の子馬に充分なセレニウム摂取を施す手法も有効です。妊娠牝馬に対するセレニウム補給療法も提唱されていますが、胎盤を通過するセレニウムの濃度は僅かであるため、その有用性に関しては論議(Controversy)があります。
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