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フリーバーン厩舎では馬の疝痛が少ない?

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一般的に、馬の飼養形態の一つであるフリーバーン厩舎(Active open barn)では、馬同士の社会的交流や自由運動の機会が得られることから、馬のウェルフェアの向上に繋がる、という考え方があります。一方で、馬主や飼養管理者にとっては、馬同士の交錯や喧騒から怪我のリスクが増える、という懸念もあると言えます。

ここでは、フリーバーン厩舎において、疝痛や跛行などの馬の健康問題が起こる頻度や状況を調査した知見を紹介します。下記の研究では、スウェーデンの馬の牧場において、フリーバーン厩舎で飼養されている66頭の馬、および、一頭ずつの馬房厩舎で飼養されている69頭の馬における健康問題の発生状況が、九ヶ月にわたって記録および解析されました。

参考文献:
Kjellberg L, Dahlborn K, Roepstorff L, Morgan K. Frequency and nature of health issues among horses housed in an active open barn compared to single boxes-A field study. Equine Vet J. 2024 Jan 3. doi: 10.1111/evj.14054. Online ahead of print.

結果としては、飼養馬の疝痛の発生率は、馬房厩舎(5%)に比べてフリーバーン厩舎(0%)のほうが有意に低いことが分かりました。また、飼養馬での跛行の発生率を見ても、馬房厩舎(26%)よりもフリーバーン厩舎(18%)のほうが有意に低くなっていました。このため、フリーバーン厩舎で馬を飼養することで、疝痛や跛行の発生予防に繋がることが示唆されました。なお、下グラフは、健康問題の発生回数を表わしており、青色がフリーバーン厩舎(AOB)で、橙色が馬房厩舎(BOX)を示しています(Colic:疝痛、Lameness:跛行、Wound from unclear cause:原因不明の外傷、Wound from interaction:他馬との交錯による外傷)。

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この研究では、フリーバーン厩舎の飼養馬では、擦過傷や裂傷などの外傷が多いという傾向が認められ、それも含めて、健康問題を起こした馬の割合そのものは、馬房厩舎(52%)よりもフリーバーン厩舎(83%)のほうが高くなっていました。しかし、一頭当たりの健康問題の発生件数(平均)は、馬房厩舎(1.14件)とフリーバーン厩舎(1.54件)で有意差は無く、また、それらの健康問題が原因で騎乗不可となった日数を見ても、馬房厩舎(15日)とフリーバーン厩舎(10日)で有意差は認められませんでした。

一般的に、フリーバーン厩舎で飼養されている馬では、自由運動が増えて、筋活動量が増加すること[1]、および、疝痛や呼吸器病が減少することが報告されています[2]。また、フリーバーンでの飼養では、蹄機作用、筋力増強、骨密度などが増すことで、運動器疾患に起因する跛行の発症率を下げる効能もある、という知見もあります[3]。ただ、馬の品種や年齢、去勢の有無によっては、馬同士の蹴傷によって深刻な怪我をするケースもあるため[4]、相性の良い馬の組み合わせを精査することの重要性が指摘されています[5]。

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この研究で調査された馬群は、全てウォームブラッドの乗用馬であり、平均年齢は約十歳となっていました。このため、気性の穏やかな個体が多かったと推測され、フリーバーン様式でも深刻な怪我は起きず、群飼養によるメリットが明瞭に示されたと考えられます。また、過去の文献では、多頭放牧する馬たちを、前もって隣り合わせの馬房で飼養して、互いを顔見知りにしておくことで、喧騒による怪我のリスクを減らせるという知見があります[6]。更に、馬群内での攻撃的な行動は、それぞれの馬群によって多様であり、各馬の相性が大きく影響するというデータもあります[7]。つまり、フリーバーン飼養を実施する場合にも、大小幾つかの馬群に分けておくことで、馬の振り分けを試行錯誤して、最適な馬群を構成するのが良いのかもしれません。

この研究では、一つのフリーバーン区画に24頭の馬が飼養され、一頭当たりの面積は150平方メートルとなっていました。過去の文献では、フリーバーンが広くなるほど、飼養馬の攻撃的な行動が少なくなることが示されています[7]。また、他の文献では、フリーバーンでの一頭当たりの面積が106平方メートルを下回ると、攻撃的行動が有意に増加して、331平方メートルに上回るまでは攻撃的行動が減少していく、という知見も報告されています[8]。ただ、これらの文献でも、此処の馬における群飼養の経験が、攻撃的な行動の度合いに影響することが報告されており、単に、一頭当たりの面積を広く取るだけでなく、フリーバーン飼養への馴致に十分な時間を掛けることも重要だと考えられました。

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Photo courtesy of Equine Vet J. 2024 Jan 3. doi: 10.1111/evj.14054.

参考文献:
[1] Gulbrandsen K, Herlin AH. The influence of housing system on voluntary activity of horses. Paper presented at XVII International Congress on Animal Hygiene, June 7–11, 2015, Kosice, Slovakia.
[2] Yngvesson J, Rey Torres JC, Lindholm J, et al. Health and Body Conditions of Riding School Horses Housed in Groups or Kept in Conventional Tie-Stall/Box Housing. Animals (Basel). 2019 Feb 26;9(3):73.
[3] Graham-Thiers PM, Bowen KL. Improved ability to maintain fitness in horses during large pasture turnout. J Equine Vet Sci. 2013; 33: 581–585.
[4] Knubben JM, Furst A, Gygax L, et al. Bite and kick injuries in horses: prevalence, risk factors and prevention. Equine Vet J. 2008 May;40(3):219-23.
[5] Lehmann K, Kallweit E, Ellendorff F. Social hierarchy in exercised and untrained group-housed horses—a brief report. Appl Anim Behav Sci. 2006; 96: 343–347.
[6] Hartmann E, Christensen JW, Keeling LJ. Social interactions of unfamiliar horses during paired encounters: effect of pre-exposure on aggression level and so risk of injury. Appl Anim Behav Sci. 2009; 121: 214–221.
[7] Majecka K, Klawe A. Influence of paddock size on social relationships in domestic horses. J Appl Anim Welf Sci. 2018; 21(1): 8–16.
[8] Flauger B, Krueger K. Aggression level and enclosure size in horses (Equus caballus). Pferdeheilkunde. 2013; 29: 495–504.

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