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馬の下痢症による致死率と蹄葉炎の発症率

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一般的に、馬の下痢症は、入院治療の主要な要因の一つであり、深刻な脱水や敗血症(SIRS)を起こして斃死したり、蹄葉炎を続発して予後不良を呈する症例も多いと言えます。ただ、実際の診療の場面になると、馬の下痢症の原因となる病原体は、五割以上の症例で特定されないことも報告されています。

ここでは、馬の下痢症の病原体による致死率、および、蹄葉炎の発症率を比較した知見を紹介します。下記の研究では、六カ国(米国、英国、豪州、カナダ、スイス、ドイツ)の26箇所の馬診療施設において、2016〜2020年にかけて、下痢症の診察が行なわれた1,438頭の馬での医療記録の回顧的調査、および、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が実施されました。

参考文献:
Gomez DE, Arroyo LG, Schoster A, Renaud DL, Kopper JJ, Dunkel B, Byrne D; MEDS group; Toribio RE. Diagnostic approaches, aetiological agents and their associations with short-term survival and laminitis in horses with acute diarrhoea admitted to referral institutions. Equine Vet J. 2023 Nov 20. doi: 10.1111/evj.14024. Online ahead of print.

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この研究では、下痢症の原因菌を特定するため、糞便または血液の培養検査が行なわれた症例はそれほど多くなかったことが分かり、サルモネラ菌では全症例の44%、ネオリケッチア菌では42%、クロストリディウム菌では40%、馬コロナウイルスでは29%に過ぎませんでした。そして、特定された下痢症の原因としては、サルモネラ菌とネオリケッチア菌がそれぞれ13%で最多であり、次いで、馬コロナウイルスが9%、クロストリディウム菌が5%となっていました。

この研究では、二次病院への入院が必要となった重篤な下痢症のみが調査対象であったため、症例全体での致死率は24%に及んでいました(このうち、経済的な理由で安楽殺となったのは約一割)。また、下痢症の病原体ごとに見ると、クロストリディウム菌の感染馬における致死率は44%に達しており、非感染馬での致死率(23%)よりも有意に高いことが分かりました。その結果、クロストリディウム菌による下痢症では、他の病原体に比較して、死亡する確率が二倍以上も高くなる(OR=2.69)ことが示されています。また、クロストリディウム菌の感染馬における蹄葉炎の発症率は18%に上っており、非感染馬のそれ(7%)よりも明瞭に高くなっていました。

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このため、馬の下痢症のうち、クロストリディウム菌によるもの(いわゆるX大腸炎)では、致死率や蹄葉炎の発症率が高いという従来の知見が再確認されたと言えます。このため、難治性の馬の下痢症を診察するときには、培養検査でクロストリディウム菌の感染の有無を確認したり、同病原体に有効な抗生剤(メトロニダゾール等)を早期に投与するなどの方策が重要であると考えられます。なお、下痢症状を呈した症例では、糞便中の多量な水分で病原体が薄められるため、培養検査の陰性が、必ずしも感染無しの確証にはなりえない、という点にも留意する必要があります(複数回の培養検査での陰性を確認する必要がある)。

この研究では、ネオリケッチア菌の感染馬における蹄葉炎の発症率は23%に達しており、非感染馬でのそれ(9%)よりも有意に高いことが分かりました。その結果、ネオリケッチア菌による下痢症では、他の病原体に比較して、蹄葉炎を発症する確率が二倍以上も高くなる(OR=2.76)ことが示されています。一方で、ネオリケッチア菌の感染馬における致死率は23%で、非感染馬のそれ(22%)と同程度になっていました。なお、この菌はポトマック熱の原因菌であり、現在、日本での発症はありません。

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この研究では、馬の下痢症のうち、抗生物質の経口投与に起因するものが8.3%に及ぶことが分かり、原因薬剤としては、トリメトプリム+スルファミドが20%と最も多く、次いで、ドキシサイクリンが7.5%、セフチオフルが4%となっていました。また、抗生物質による下痢症では、サルモネラ菌の感染馬が11%で、ネオリケッチア菌の感染馬が10%となっていました。このため、経口投与の抗生物質を適応する際には、下痢症の徴候を慎重に監視するのが大切であることが再確認されたと言えます。

この研究では、馬の下痢症のうち、大腸内での砂貯留に起因するものが5%に及ぶ(いわゆる砂疝)ことが報告されており、これらの馬では、馬コロナウイルスの感染馬が23%、クロストリディウム菌の感染馬が11%、ネオリケッチア菌の感染馬が7.5%となっていました。このため、砂疝から下痢症に至ったと推測される馬においても、病原体の感染を併発している可能性を考慮して、培養検査や抗菌剤療法を考慮する必要があると言えます。なお、砂疝での下痢症における致死率は17%で、蹄葉炎の発症率は3%であり、いずれも砂疝ではない馬の致死率/蹄葉炎発症率とのあいだで有意差は無かったことが報告されています。

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