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健常馬での腰椎病変の発生状況

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一般的に、馬の背部痛(Back pain)は、診断麻酔や画像診断を実施するのが難しく、有用な注射療法や外科的治療が少ないことから、難治性や回帰性の経過を示す病態が多いことが知られています(棘突起衝突等の一部の疾患を除き)。ここでは、馬の腰椎における、骨組織病変の多様性を調査した知見を紹介します。下記の研究では、イタリアのペルージャ大学の獣医病院にて、40頭の健常馬の屠体を用いて(腰臀部に異常の無かった馬)、腰椎部の骨組織のCT検査による形態的病態が解析されました。

参考文献:
Scilimati N, Angeli G, Di Meo A, Dall'Aglio C, Pepe M, Beccati F. Post-Mortem Computed Tomographic Features of the Most Caudal Lumbar Vertebrae, Anatomical Variations and Acquired Osseous Pathological Changes, in a Mixed Population of Horses. Animals (Basel). 2023 Feb 19;13(4):743.

結果としては、40頭の健常馬の屠体における腰臀部では、椎骨の棘突起同士が接触していた馬は54%に及んでおり(下図のAとB)、棘突起の癒合に至っていた馬も15%に達していました(下図のCとD)。このうち、棘突起接触の好発部位としては、第二・第三腰椎間が57%と最も多く、次いで、第一・第二腰椎間が19%となっていました。一方、棘突起癒合の好発部位としては、第二・第三腰椎間(背側部)、および、第一・第二腰椎間(腹側部)が、いずれも33%となっており、次いで、第三・第四腰椎間(腹側部)が17%となっていました。

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この研究では、腰椎の脊椎症を起こしていた馬も42.5%に上っていたことも報告されており、発生領域としては、腰椎の外側部のみのケースが29%で、腹側部と外側部に併発していたケースが71%となっていました。また、腰椎脊椎症の好発部位としては、第三腰椎頭側部および第四腰椎尾側部が、いずれも59%に及んでおり、次いで、第二腰椎頭側部が41%、第四腰椎頭側部が35%となっていました。

この研究では、腰椎の脊椎症の発現は、高齢馬において有意に多いことが示されています。そして、第二・第三腰椎および第三・第四腰椎における結節間関節では、骨組織病変のグレードが高いほど、脊椎症の発生率も高い傾向が認められました。なお、第二・第三腰椎間関節の骨組織病態は、体重の重い馬ほど生じやすい傾向が確認されましたが、腰椎の脊椎症の発生箇所では、CT画像上での骨密度の有意な変動は検知されませんでした。

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この研究では、骨組織の病変として最も多かったのは、第一と第二腰椎のあいだの横突起間関節に認められ、この病変は、椎骨の左側(97%)と右側(96%)で同程度に生じていました。また、第一と第二腰椎のあいだの椎間板では、部分的癒合が22.5%の馬において認められており、これらは、CT画像上での結節間関節の変性的病態と合致していました。

この研究では、腰臀部の疾患を示唆する臨床症状を示していない、健常馬の屠体のみが解析されていましたが、棘突起や椎間関節、および、椎間板に関連した多様な腰椎病変が検知されました。このため、馬の腰臀部の骨組織では、組織学的および画像診断上の異常所見が存在している割合は高いものの、それらの腰椎病変は、必ずしも疼痛を伴っているとは限らないため、診断麻酔や診断的局所治療による反応性を見なければ、背部痛やプアパフォーマンス等との因果関係を特定するのは難しいと考えられました。

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この研究では、腰臀部の骨組織病変における病因論を示唆する知見も示されており、これには、横突起間関節と結節間関節の病変が併発する傾向、および、結節間関節癒合と腰椎脊椎症が併発する傾向が認められ、これらの間に因果関係が存在する可能性があると考察されています。一方、腰椎間の脊椎変位症(脊椎すべり症)が認められたのは一頭のみであり、第一・第二腰椎の椎間板変性を伴っていました。しかし、この病態においては、結節間関節および横突起間関節の両側性癒合を併発していたことから、馬の腰椎での脊椎変位症では、変位した椎骨を物理的に矯正するのは困難であると推測されました。

この研究では、腰椎における横突起間関節の間隙幅と、CT画像で算出された椎体の骨密度のあいだには、強い正の相関をあることが報告されています(特に、第一・第二腰椎間および第二・第三腰椎間において)。この理由は、正確には特定されていませんが、腰椎間の関節の間隙が広いことで、運動負荷時における椎体への歪みが増加して、骨密度の上昇に繋がった可能性があるのかもしれません。ただ、実際の症例では、X線やエコーの画像上で、横突起間関節の間隙幅を正確に測定するのは難しいことが知られており、病態の診断や予防に役立てるのは難しいと推測されています。

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Photo courtesy of Animals (Basel). 2023 Feb 19;13(4):743.

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