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馬の文献:蜂窩織炎(Adam et al. 2007)

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「馬の原発性および続発性の四肢蜂窩織炎:2000~2006年の44症例」
Adam EN, Southwood LL. Primary and secondary limb cellulitis in horses: 44 cases (2000-2006). J Am Vet Med Assoc. 2007 Dec 1;231(11):1696-703.

この症例論文では、馬の蜂窩織炎の診断、治療、予後について検証するため、米国のペンシルバニア大学の獣医病院にて、2000~2006年にかけて、四肢の蜂窩織炎の治療のために入院した44頭の馬における、医療記録の回顧的解析が行なわれました。この研究では、皮膚全層に及ぶ真皮壊死が四肢腫脹の発現後に生じた病態を、原発性の蜂窩織炎と定義しており(24/44頭)、一方で、皮膚全層に及ぶ真皮壊死が手術または注射の箇所に生じた病態を、続発性の蜂窩織炎と定義していました(20/44頭)。

この研究では、四肢蜂窩織炎の罹患馬のプロファイルとしては、牝馬が66%、騙馬が20%、牡馬が14%となっていました。また、サラブレッドが79%を占めており、用途としては、競走馬が52%を占めていました(用途と原発性vs続発性の分類とのあいだには統計的な関連性は無し)。そして、罹患馬の平均年齢は五歳となっていました(範囲は7ヶ月齢~17歳齢)。

この研究では、原発性の蜂窩織炎のうち、外傷の病歴が無かった馬が50%(12/24頭)に及んでおり、感染源となる外傷が確認された馬は29%(7/24頭)に過ぎませんでした(その他の5頭は外傷の有無が不明)。また、罹患肢以外の箇所に皮膚病を呈していた馬は、三頭のみでした(二頭が腋窩、一頭が繋皹)。そして、症状発現(四肢の腫脹)から入院までの期間は、平均で5.5日間となっていました(範囲は0.5~28日間)。

この研究では、続発性の蜂窩織炎のうち、感染源としては、皮膚裂傷の縫合処置が行なわれた馬が55%(11/20頭)と最も多く、次いで、手術の術創であった馬が30%(6/20頭)、関節注射であった馬が15%(3/20頭)となっていました。また、これらの手術や注射から、蜂窩織炎の発症までの期間は、平均で13日間も経っていたことが分かりました(範囲は1~56日間)。さらに、症状発現(四肢の腫脹)から入院までの期間は、平均で8日間となっていました(範囲は1~56日間)。

この研究では、四肢蜂窩織炎の罹患馬のうち、入院時に抗炎症剤が投与されていた馬は57%(25/44頭)であり、入院時に抗生物質が投与されていた馬は52%(23/44頭)でした。このうち、βラクタム系とアミノグリコシド系の抗生物質が併用されていた馬が30%(13/44頭)となっていました。また、入院時に発熱を呈していた馬は64%(28/44頭)に及んでおり、平熱であった馬のうち、27%(12/44頭)では、12時間以内に非ステロイド系抗炎症剤は投与されていました(その他の二頭は発熱の有無は不明)。

この研究では、原発性の蜂窩織炎が発症したのは、後肢(62%)のほうが前肢(38%)よりも多いことが分かりました。また、常歩での跛行を呈した馬は92%で、不負重性跛行を呈した馬も21%に達していました。そして、腫脹の中心箇所は、飛節が最も多く(29%)、次いで、繋ぎ(21%)、球節(21%)、管部(17%)となっていました。加えて、エコー検査の所見としては、皮下識の液体貯留巣が最も多く(53%)、次いで、滑膜膨満(32%)、脈管血栓症(21%)などが認められました。

この研究では、四肢蜂窩織炎での症状として、血液検査では、白血球増多症(34%)、および、高フィブリノーゲン血症(75%)が認められ、また、八割以上の症例において、皮膚病変の滲出液または皮下膿瘍の穿刺液を用いて細菌培養が実施されました。その結果、分離された細菌を見ると、原発性の蜂窩織炎では、コアグラーゼ陽性スタフィロコッカス属菌が最も多く(60%)、次いで、β溶血性ストレプトコッカス属菌(20%)、大腸菌(20%)、エンテロバクター属菌(15%)となっていました。一方、続発性の蜂窩織炎では、β溶血性ストレプトコッカス属菌が最も多く分離され(50%)、次いで、コアグラーゼ陽性スタフィロコッカス属菌(25%)、シュードモナス菌(19%)となっていました。

この研究では、44頭の四肢蜂窩織炎の罹患馬のうち、一頭が重度皮膚壊死(続発性)、もう一頭が対側肢の蹄葉炎(原発性)のため、入院直後に安楽殺となりましたが、その他の42頭では、抗生物質と抗炎症剤の全身投与による治療が試みられました。これらの馬では、抗生物質の静脈内投与の期間は、平均9.8日間で(範囲は3~35日間)、24頭の症例では(原発性と続発性が12頭ずつ)、静注の投与期間終了後に、経口投与での投与が継続されました(平均で13.6日間、範囲は3~28日間)。また、抗炎症剤の投与期間は、平均で10日間となっていました(範囲は2~34日間)。

この研究では、抗生物質や抗炎症剤の全身投与以外の治療として、補液療法(6頭)、ブトルファノール静注(4頭)、リドカイン静注(4頭)、抗生物質含有の骨セメントの充填(2頭)、DMSO静注(1頭)、ヘパリン筋注(1頭)、ポリミキシンB静注(1頭)、モルヒネ硬膜外投与(1頭)などが含まれました。また、抗生物質の局所肢灌流療法が実施されたのは11頭に及び、その他にも、皮膚移植(1頭)や腐骨除去手術(1頭)が行なわれた症例もありました。なお、全症例での入院期間は、平均で12日間(範囲は1~65日間)となっていました。

この研究では、四肢蜂窩織炎の合併症としては、蹄葉炎が23%(10/44頭)の症例に認められ、これらの馬での致死率は90%に及んでいました(9/10頭)。また、全層に達する皮膚壊死が57%(25/44頭)の症例に見られ、このうち、原発性の蜂窩織炎では75%(18/24頭)、続発性の蜂窩織炎では35%(7/20頭)でした。その他の合併症としては、高窒素血症(2頭)、サルモネラ症(1頭)、頚静脈血栓症(1頭)、および、疝痛(2頭)などが含まれました(このうち、二頭の疝痛馬は、いずれも内科的治療で回復)。

この研究では、四肢蜂窩織炎における短期生存率は77%(34/44頭)でしたが、このうち、原発性の蜂窩織炎での短期生存率は67%(16/24頭)に留まったのに対して、続発性の蜂窩織炎での短期生存率は90%(18/20頭)となっていました(退院できた場合を短期生存と定義)。また、退院時点において、蜂窩織炎の罹患肢が正常な太さに戻っていた馬は、わずか12%(4/34頭)に過ぎませんでしたが(この四頭は、いずれも続発性の蜂窩織炎)、その一方で、退院時に常歩で無跛行であった馬は91%(31/34頭)に及んでいました。

この研究で、長期的な経過追跡ができた26頭のうち、健常歩様に回復していた馬は77%(20/26頭)でした。しかし、意図した用途に使役できていた馬は69%(18/26頭)に留まっており、また、罹患肢の太さが元通りになっていた馬は46%(12/26頭)に過ぎませんでした。そして、完治までに三ヶ月以上を要した馬は27%(7/26頭)、一回以上の蜂窩織炎の再発を認めた馬は23%(6/26頭)であり、さらに、罹患肢に関する問題が生じていた馬は35%(9/26頭)に達していました(強運動後に腫脹や跛行を呈するなど)。加えて、回帰性跛行や変性関節疾患のため、退院後に安楽殺となってしまった馬も8%(2/26頭)となっていました。

この研究では、入院時に発熱していた場合、および、蹄葉炎を発症した場合には、生存できない確率が有意に高いことが分かりました。また、細菌培養にて、大腸菌が分離された場合にも、生存できない確率が有意に高くなっており、さらに、β溶血性ストレプトコッカス属菌が分離された場合には、皮膚病変を呈する確率が有意に高くなっていました。なお、複数の抗生物質が投与された場合には、入院期間が有意に長くなることも示されています。

この研究は、二次病院での症例報告であったため、一次診療の治療に不応性を示した難治性蜂窩織炎の治療成績を示していましたが、原発性の蜂窩織炎に限ってみても、生存率は67%に留まっており、長期的な合併症や運動能力低下を続いてしまう割合も高いことが示されました。このため、一次診療にて蜂窩織炎の治療を実施するときにも、慎重な病態監視、細菌培養に基づいた抗生物質の選択、および、局所肢灌流等の追加治療を積極的に応用することで、早期治療に努めることが重要であることを再確認させるデータが示されたと言えます。

この研究では、馬の四肢における蜂窩織炎の留意点として、(1)後肢に好発すること、(2)感染源のキズが見つからない症例も多いこと、(3)治癒後にも慢性腫脹が続いてしまう症例も多いこと、(4)蹄葉炎を続発した場合には予後が悪化すること(適切な疼痛制御が重要)、(5)難治性となった場合には皮下の漿液腫や膿瘍を併発している症例が多いこと、などが挙げられていました。また、治療には数ヶ月もの長期間を要する可能性があること(治療費が高額に及ぶ可能性)、および、発症前と同レベルの競技/競走能力までは回復できない馬も、全体の三割程度に達することなどについて、初診の段階で、適切にインフォームドコンセントしておく必要があることも示唆されています。

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