馬の病気:麻酔後筋神経病
馬の運動器病 - 2013年09月12日 (木)

麻酔後筋神経病(Postanesthetic myoneuropathy)について。
全身麻酔(General anesthesia)の覚醒後に、筋肉や神経組織の障害を起こす疾患で、局所性および全身性の病態を呈します。局所性の筋神経障害(Localized myopathy-neuropathy)は、羅患部位の虚血(Ischemia)や低灌流(Hypoperfusion)に起因し、長時間にわたる筋圧迫(Prolonged muscle compression)、低血圧(Systemic hypotension)、低酸素症(Hypoxia)等が病因(Etiology)となります。全身性の筋障害(Generalized myopathy)は悪性高熱(Malignant hyperthermia)に似た病態を示し、低血圧や低酸素症に加えて、労作性横紋筋融解症(Exertional rhabdomyolysis)や多糖体貯蔵筋症(Polysaccharide storage myopathy)等の、根底疾患(Underlying disease)が発症に関与している可能性も示唆されています。
麻酔後筋神経病の症状は、麻酔覚醒の30~60分後に見られ始めることが多く、局所性病態による羅患筋肉の腫脹(Swelling)、熱感(Heat)、圧痛(Pain on palpation)、および、全身性病態による頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、発熱(Fever)、苦悶(Anxiety)などが認められます。また、患肢への負重が困難となり、起立不能(Recumbency)に陥る場合もあります。血液検査では、CK、AST、LDH濃度の顕著な上昇が見られ、筋色素尿(Myoglobinuria)を呈する症例もあります。
麻酔後筋神経病の治療では、自力での起立が可能な症例においては、補液療法(Fluid therapy)に併せて、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)、DMSO、Dantroleneの投与が行われます。起立困難となった症例に対しては、抗炎症剤投与に併行して、鎮静剤(Sedation)と鎮痛剤(Analgesic)の投与で、長時間にわたるもがき反応(Struggling)を予防します。また、重曹(Sodium bicarbonate)の投与による代謝性酸血症(Metabolic acidosis)の治療を要したり、アルコール浴によって高体温の改善が施される場合もあります。持続的な起立不能に陥った症例においては、重篤な褥瘡(Decubital sores)を防ぐため、馬体を数時間おきに寝返らせたり、突出部へのワセリン塗布等の看護療法(Nursing care)を行うことも重要です。
麻酔後筋神経病の予防法としては、全身麻酔下では血圧を80~85mmHg以上に保つこと、充分なパッドをあてがうこと(特に肩部、臀部、大腿部)、馬体の下方となっている前肢を頭側に引き出して肩部への圧迫を軽減すること(横臥位の場合)、麻酔中の体温をモニタリングして悪性発熱の早期発見に努めること、などを徹底することが大切です。また、労作性横紋筋融解症や多糖体貯蔵筋症の病歴を持つ馬に対しては、麻酔深度が深くなり過ぎないよう特に注意することが重要です。麻酔中に、予防的にDantroleneを投与する指針も用いられていますが、効能に関しては科学的裏付けを欠くため、実施には賛否両論(Controversy)があります。
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