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子馬のロドコッカス肺炎での高度免疫血漿の効能

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子馬に発症するロドコッカス肺炎(Rhodococcal pneumonia)は、ロドコッカス菌(Rhodococcus equi)によって起こる深刻な呼吸器感染症であり、土壌病として特定牧場で多発することが多く、将来的な馬の競走/競技能力の低下にも繋がることから、その予防対策が重要な疾患であると言えます。そのためには、初乳の適切な摂取によって移行免疫を獲得させることが第一ですが、ロドコッカス菌の免疫原になりうるリポ蛋白質(VapA)に対する抗体を含有した高度免疫血漿(Hyperimmune plasma)の投与も実施されています。

近年の研究では、高度免疫血漿の投与によって、ロドコッカス肺炎の発症率や重症度が抑えられるという成績がある一方で[1,2]、その効き目を疑問視する知見も示されています[3,4]。このため、高度免疫血漿の効能に関与する要因について、詳細な検証が必要であると言えます。そこで、下記の研究では、205頭の新生子馬に対して、生後48時間以内に高度免疫血漿(2L)が投与され、その前後における血液検査、および、五ヶ月齢までのロドコッカス肺炎の発症状況が調査され、オッズ比(OR)の算出による危険因子の解析が行なわれました。

参考文献:
Bettencourt AB, Reiskind D, Flores-Ahlschwede P, Kahn SK, Bray JM, Villafone EG, Ahlschwede S, Bordin AI, Cohen ND. Serum activities of complement 1q and antibodies to the virulence-associated protein A are lower in foals that develop rhodococcal pneumonia. Am J Vet Res. 2024 Jan 13:1-10. doi: 10.2460/ajvr.23.08.0180. Online ahead of print.

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・ReSolution Rhodococcus Equi Antibody (Mg Biologics: Ames, Iowa, USA)

一般的に、高度免疫血漿によるロドコッカス肺炎の予防では、免疫グロブリンG(IgG)やVapA抗体だけでなく、他の因子が関与していると提唱されています(ロドコッカス感染した母馬の初乳を摂取しても、その子馬には予防効果が充分には示されないため[5])。その一つとしては、補体成分1q(Complement component 1q: C1q)が挙げられており、ロドコッカス菌にC1qが結合することで(オプソニン化)、食細胞に取り込まれやすくなることが知られています[6]。このため、高度免疫血漿に含まれるC1q濃度の多様性、および、子馬のオプソニン能力(成馬よりも子馬のほうが低い[7])の個体差によって、高度免疫血漿の効能が左右されている可能性があります。

この研究の結果としては、高度免疫血漿の投与前における血中C1q濃度が低値の場合には、ロドコッカス肺炎を発症するリスクが二倍以上も高くなる(OR=2.1)ことが分かりました(健常群の中央値よりも低い場合を低値と定義)。一方、高度免疫血漿の投与後における血中IgG濃度が低値の場合には、ロドコッカス肺炎を発症するリスクが三倍以上も高くなる(OR=3.3)ことも示されています(投与群内の下位四分位に含まれる場合を低値と定義)。なお、今回の研究におけるロドコッカス肺炎の発症確認では、臨床症状(発咳、発熱、抑鬱、頻呼吸等)に加えて、胸部エコー検査による肺膿瘍/肺硬変の所見が取り込み基準とされていました。

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このため、子馬のロドコッカス肺炎を予防するためには、高度免疫血漿に含まれるIgGやVapA抗体の濃度だけでなく、子馬の血中における補体成分1qの濃度が重要であることが示唆されています。一般的に、子馬の血中C1q濃度は、体内での生成と初乳からの摂取によって上昇すると考えられています。つまり、たとえ高度免疫血漿が投与されても、体内C1qが低値である子馬では、ロドコッカス肺炎の予防効果が充分に得られない可能性があります。言い換えると、十分な初乳を摂取させること、および、子馬の全身状態を健常に保って、正常な補体生成を促進することで、高度免疫血漿による肺炎の予防効果を増強できると考えられました。

この研究では、高度免疫血漿の投与によって、子馬の血中C1q濃度が低下する現象が認められました。この理由は確定されていませんが、投与された血漿そのものには高濃度のC1qが含まれているため(280μg/mL)、血漿が血液を薄めた訳ではなく、血漿の投与によって血液の浸透圧が上がって、間質液の脈管内移行が生じたものと推測されています。ただ、濃度が下がったとしても、子馬の体内にあるC1qの総量は増加することから、高度免疫血漿の投与によって、ロドコッカス菌のオプソニン化が減退することはないと考察されています。

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この研究では、子馬が四月または五月に生まれた場合には、ロドコッカス肺炎を発症するリスクが三倍も高くなる(OR=3.0)ことが報告されています。この理由についても、この論文内では確定されていませんが、今回の調査対象となった牧場では、四月と五月は馬の繁殖シーズンの後半にあたり、母馬と子馬の数が増えることで、環境中のロドコッカス菌の量も増加したと推測されています。また、四月と五月は、より気温の高い時期なので、ロドコッカス菌の増殖が促進されたり、土壌が乾燥して舞い上がった厩舎ダストを介して、菌の伝搬リスクが増したことも要因として挙げられています。

この研究では、血中C1q濃度とロドコッカス肺炎の発症との相関が検証されていましたが、この二つの直接的な因果関係を証明するものではなく、C1q濃度が他の要素(自然免疫能の高さなど)と関連していた可能性も否定できないと考察されています(つまり、高用量のC1qを投与すれば、高度免疫血漿による肺炎の予防効果が高くなるとは限らない)。ただ、C1qの血中濃度を測定することで、肺炎のリスクが高い個体や、高度免疫血漿が効きにくい個体を抽出することができ、その後、慎重に容態を監視したり、隔離して飼養することで、ロドコッカス肺炎の早期発見や付帯的な予防措置の適応判断に寄与すると考えられます。また、将来的に、ロドコッカス肺炎の遺伝子ワクチンを開発するときにも、抗体価だけでなく、補体の血中濃度も測定することで、その効能を正しく評価できると考察されています。

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参考文献:
[1] Higuchi T, Arakawa T, Hashikura S, et al. Effect of prophylactic administration of hyperimmune plasma to prevent Rhodococcus equi infection on foals from endemically affected farms. Zentralbl Veterinarmed B. 1999 Nov;46(9):641-8.
[2] Sanz MG, Loynachan A, Horohov DW. Rhodococcus equi hyperimmune plasma decreases pneumonia severity after a randomised experimental challenge of neonatal foals. Vet Rec. 2016 Mar 12;178(11):261.
[3] Giguere S, Gaskin JM, Miller C, et al. Evaluation of a commercially available hyperimmune plasma product for prevention of naturally acquired pneumonia caused by Rhodococcus equi in foals. J Am Vet Med Assoc. 2002 Jan 1;220(1):59-63.
[4] Hurley JR, Begg AP. Failure of hyperimmune plasma to prevent pneumonia caused by Rhodococcus equi in foals. Aust Vet J. 1995 Nov;72(11):418-20.
[5] Martens RJ, Martens JG, Fiske RA. Failure of passive immunisation by colostrum from immunised mares to protect foals against Rhodococcus equi pneumonia. Equine Vet J. 1991;23:19–22.
[6] Harvey AB, Bordin AI, Rocha JN, et al. Opsonization but not pretreatment of equine macrophages with hyperimmune plasma nonspecifically enhances phagocytosis and intracellular killing of Rhodococcus equi. J Vet Intern Med. 2021 Jan;35(1):590-596.
[7] Grondahl G, Johannisson A, Jensen-Waern M. Opsonic effect of equine plasma from different donors. Vet Microbiol. 1997 Jun 16;56(3-4):227-35.

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