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馬の文献:蜂窩織炎(Fjordbakk et al. 2008)

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「63頭の馬に発症した四肢蜂窩織炎の臨床的特徴の回顧的解析」
Fjordbakk CT, Arroyo LG, Hewson J. Retrospective study of the clinical features of limb cellulitis in 63 horses. Vet Rec. 2008 Feb 23;162(8):233-6.

この症例論文では、馬の蜂窩織炎の診断、治療、予後について検証するため、カナダのゲルフ大学の獣医病院にて、1994~2005年にかけて、四肢の蜂窩織炎を発症して搬入された63頭の馬における、医療記録の回顧的解析が実施されました。

この研究では、63頭の蜂窩織炎の発症馬のうち、罹患肢としては前肢(37%)よりも後肢(63%)に好発しており、重度跛行(グレード4~5/5)を呈した馬が49%(30/61頭)に及んでいました(グレード4が21頭で、グレード5が9頭)。また、入院時の臨床症状としては、皮下浮腫や腫脹箇所の圧痛が認められました。一方で、蜂窩織炎の推定/確定診断が下されず、跛行検査の依頼として来院していた馬も24%(15/63頭)に及んでいました。他の症状としては、発熱(37%)、頻脈(66%)、白血球増多症(54%)、高フィブリノーゲン血症(93%)などが含まれました。

この研究では、入院時で既に実施されていた治療としては、抗炎症剤の投与(75%)、抗生物質の投与(70%)、水冷療法(11%)などが含まれ、入院までの経過期間は、平均で五日間(範囲は1~17日間)でした。また、蜂窩織炎の感染源は、不明であった馬が44%と最も多く、次いで、外傷(25%)、無菌手術(14%)、無菌でない手術(11%)、注射療法(5%)となっていました。なお、注射療法から蜂窩織炎の発症までの期間は、平均で九日間も掛かっており、更に、その範囲は3日間から21日間まで多様となっていました。

この研究では、入院後の治療としては、抗生物質と抗炎症剤の併用が最も多く、細菌培養と感受性試験の結果が無いときには、ペニシリン系とアミノグリコシド系の抗生剤が同時投与、もしくは、トリメトプリム・スルファジアジン(TMS)の投与が選択されていました。また、疼痛制御の要があれば、モルフィンもしくはフェンタニル・パッチも用いられていました。そして、難治性の腫脹を呈した症例では、エコー誘導による皮下膿瘍の排液や、壊死組織の掻把術が実施されました。加えて、罹患肢のへのバンテージ装着や、水冷療法、常歩運動による浮腫軽減措置、および、対側肢の蹄底へのクッション材装着による負重性蹄葉炎の予防処置も講じられていました。

この研究では、28頭の症例で細菌培養が実施され(滲出液または膿瘍穿刺液を用いて)、そのうち、細菌分離されたのは82%(23/28頭)でした。また、分離された39種類の菌のうち、黄色ブドウ球菌とストレプトコッカス属菌が最も多く(いずれも28%)、次いで、大腸菌(13%)、アクチノバシラス属菌(8%)となっていました。これらの菌のうち、ペニシリン耐性菌は61%、ゲンタマイシン耐性菌は16%、TMS耐性菌は45%となっていました。そして、入院期間は平均で七日間で、範囲は1~43日間でした。

この研究では、63頭の蜂窩織炎の罹患馬のうち、退院できた馬は56頭に留まっていました(短期生存率は89%)。また、非生存の七頭においては、蹄葉炎(3頭)、内毒素血症(1頭)、広範な皮膚欠損(1頭)、および、慢性跛行によって競技能力の維持困難と判断された(1頭)などの理由で安楽殺が選択されており、残りの一頭は、小腸重責から胃破裂を併発して斃死していました。その他に、入院中に認められた合併症としては、細菌性関節炎、下痢症、盲腸食滞、結腸食滞、頚静脈血栓症、胃潰瘍等が含まれました。

このため、馬の四肢での蜂窩織炎において、一次診療での内科療法が奏功せず、二次病院への入院を要した場合には、死亡率が一割近くに及ぶことが示唆されています。その際の、抗生物質療法としては、ゲンタマイシンに感受性を持つ菌が多いことが示され(第二選択薬や局所肢灌流での投与に有用)、また、安楽殺の要因として最多であった蹄葉炎を予防するため、適切な疼痛制御(オピオイド投与等)および予防的な装蹄療法(蹄底へのクッション材装着等)が推奨されると考察されています。

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