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デキサメサゾンを打った馬での予防接種の効能

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一般的に、馬に対するデキサメサゾン(コルチコステロイド)の投与は、抗炎症作用および免疫抑制作用を要する疾患に適応されており、これには、息労(回帰性気道閉塞)、アレルギー性皮膚炎、炎症性腸疾患、リンパ肉腫等が含まれます。一方、ヒト医療では、米国のCDCより、インフルエンザや新型コロナの予防接種の前後には、免疫抑制剤の投与に留意することが提唱されています[1]。馬においても、デキサメサゾンの単回投与により、八週間にわたって免疫グロブリンの生成が抑制されるというデータもあります[2]。

ここでは、馬の予防接種とデキサメサゾン投与との関連性を調査した知見を紹介します。下記の研究では、55頭の健常馬を用いて、無投与、予防接種のみ(馬インフルエンザ[EIV]と馬鼻肺炎[EHV])、予防接種+デキサメサゾン単回投与(0.05mg/kg, IV)、および、予防接種+デキサメサゾン連続投与(三日連続)という投与群に分けて、その後の一ヶ月にわたってEIVおよびEHVに対する抗体価(IgG)が測定されました。

参考文献:
Kreutzfeldt N, Chambers TM, Reedy S, Spann KM, Pusterla N. Effect of dexamethasone on antibody response of horses to vaccination with a combined equine influenza virus and equine herpesvirus-1 vaccine. J Vet Intern Med. 2024 Jan-Feb;38(1):424-430.

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この研究では、馬鼻肺炎の予防接種群では、一ヶ月後までにEHV抗体価が有意に上昇していましたが、デキサメサゾンの単回投与および連続投与では、いずれもEHV抗体価の有意な上昇は起こらないことが分かりました。また、馬インフルエンザの予防接種群では、一ヶ月後までにEIV抗体価が有意に上昇していた一方で、デキサメサゾンの単回投与では、EIV抗体価は上昇したものの、連続投与では、EIV抗体価の有意な上昇は起こらないことが分かりました。なお、投与の三日目の時点での急性期蛋白(SAA)の血中濃度は、予防接種のみを受けた群で上昇していました。

このため、馬インフルエンザと馬鼻肺炎の予防接種では、デキサメサゾン投与によって抗体価の上昇が抑えられてしまうという可能性が示唆されており、特に、連続投与されていた群では、それが顕著に認められていました。過去の文献では、馬に静脈内投与されたデキサメサゾンの半減期は18分間から5.1時間であることが示されており[3]、また、炎症性/免疫調節サイトカインの生成は、72~96時間にわたって抑制されることが報告されています[4]。

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この研究では、予防接種による抗体価の上昇には多様性が認められ、郡内で接種前後の抗体価を比較すると有意差が見られるものの、接種後の抗体価を群間で比べても有意差は認められませんでした。この理由としては、予防接種に対する免疫応答には、多要因が絡んだ複雑な個体差が存在することが挙げられています(実験前に既に獲得していた抗体サブタイプの差異等)。このため、デキサメサゾンの単回投与では、馬インフルエンザの予防接種の効果は損なわれないという実験結果も、必ずしも全ての馬に当てはまる訳ではない、という警鐘が鳴らされています。そう考えると、馬の予防接種の時期には、可能な限りコルチコステロイドの投与を控えたり、投与量を下げたり、全身投与以外の経路に切り替える(息労に対するネブライザー投与等)、などの方策が望ましいのかもしれません。

過去の文献では、デキサメサゾンが投与された馬においても、馬インフルエンザの予防接種後に、十分な抗体価の上昇が認められたことが示されており[5]、また、ヒトや実験動物の研究では、デキサメサゾン投与された個体のほうが、ワクチンに対する免疫応答が、むしろ増強されることから、予防接種のみの群よりも高い抗体価が見られたという知見もあります[6,7]。このため、デキサメサゾン投与の有無、または投与量によって、予防接種の効能がどの程度に減退(もしくは増強)されるのかは、更なる検証を要すると考察されています。

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参考文献:
[1] Altered Immunocompetence (General Best Practice Guidelines for Immunization). Vaccine Recommendations and Guidelines of the ACIP. Accessed January 30th, 2023.
[2] Slack J, Risdahl JM, Valberg SJ, et al. Effects of dexamethasone on development of immunoglobulin G subclass responses following vaccination of horses. Am J Vet Res. 2000 Dec;61(12):1530-3.
[3] Soma LR, Uboh CE, Liu Y, et al. Pharmacokinetics of dexamethasone following intra-articular, intravenous, intramuscular, and oral administration in horses and its effects on endogenous hydrocortisone. J Vet Pharmacol Ther. 2013 Apr;36(2):181-91.
[4] Knych HK, Weiner D, Arthur RM, et al. Serum concentrations, pharmacokinetic/pharmacodynamic modeling, and effects of dexamethasone on inflammatory mediators following intravenous and oral administration to exercised horses. Drug Test Anal. 2020 Aug;12(8):1087-1101.
[5] Inoue S, Shibata Y, Takabatake N, et al. Influence of corticosteroid therapy on the serum antibody response to influenza vaccine in elderly patients with chronic pulmonary diseases. EXCLI J. 2013 Aug 29;12:760-5.
[6] Spickett GP, Zhang JG, Green T, et al. Granulomatous disease in common variable immunodeficiency: effect on immunoglobulin replacement therapy and response to steroids and splenectomy. J Clin Pathol. 1996 May;49(5):431-4.
[7] Tanaka S, Mannen K. Activation of latent pseudorabies virus infection in mice treated with acetylcholine. Exp Anim. 2002 Jul;51(4):407-9.

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