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馬の息労におけるデジタル聴診装置

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高齢馬においては、ヒトの喘息に類似した呼吸器病が起こることがあり、これを、回帰性気道閉塞(いわゆる息労:Recurrent airway obstruction)と呼んでいます。一般的に、馬の息労を検査する際には、胸部の聴診による異常肺音(笛声音、捻髪音、ラッセル音、粗造呼吸音)の聴取が行なわれます。しかし、ヒトの耳による聴診で診断を下すには限界があり、その要因として、異常肺音が常に出ている訳ではないこと、異常肺音の種類分けは主観的でバイアスが働くこと、異常肺音が聴取可能な胸部領域が限定的な場合もあること、などが挙げられます。

ここでは、馬の息労において、デジタル聴診装置(Digital auscultation device)を用いて、異常肺音の探知や種類分けを試みた知見を紹介します。下記の研究では、スイスのベルン大学とカナダのモントリオール大学の獣医病院において、22頭の息労の罹患馬と12頭の健常馬に対して、胸部体壁に装着させたデジタル聴診装置によって、異常肺音を記録および解析することに併せて、内視鏡所見や肺機能試験との比較が実施されました。

参考文献:
Greim E, Naef J, Mainguy-Seers S, Lavoie JP, Sage S, Dolf G, Gerber V. Breath characteristics and adventitious lung sounds in healthy and asthmatic horses. J Vet Intern Med. 2024 Jan 8. doi: 10.1111/jvim.16980. Online ahead of print.

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結果としては、重度息労の進行期における異常肺音の検知頻度は、笛声音(68.6%)、捻髪音(66.1%)、ラッセル音(17.7%)、粗造呼吸音(97.9%)となっており、健常馬での異常肺音の検知頻度(同じ順序で、0%、0.6%、1.8%、-9.4%)よりも有意に高くなっていました。しかし、これらの異常肺音の検知頻度は、重度息労の回復期、軽度または中程度息労においては、健常馬との間に有意差は認められませんでした。一方で、笛声音の頻度は、気管粘膜の病態スコアと相関しており、また、笛声音と粗造呼吸音の頻度は、馬の息労の臨床症状スコアと相関していることが示されました。

このため、息労の罹患馬に対しては、デジタル聴診装置を用いることで、異常肺音の種類分けや定量化の一助になることが分かり、呼吸器病態の変化や治癒度合いを客観的に評価する指標になりうると考えられました。しかし、異常肺音の検知そのものは、重度息労の進行期にしか達成されていなかったため、ヒトの耳で聴取できないような軽症な異常肺音を、装置を使って高感度かつ早期に発見するのは難しいと推測されています(サンプル数をより増やした追加検討を要する)。

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この研究では、息労の罹患馬において、デジタル聴診装置による異常肺音の検知感度はそれほど高くなかったものの、胸部の11箇所に取り付けたセンサーで、60分間にわたって異常肺音を探すことが出来る、というのは利点だと言えます。このため、今後の研究では、運動負荷を掛けた後や、再呼吸バッグを装着させて血中の二酸化炭素濃度が上昇した状態など、異常肺音が増えやすい条件下で実験することで、デジタル聴診装置による異常肺音の早期発見が可能であるかを検証するのが良いと言えます。

この研究では、調査対象となったのは息労の罹患馬のみでしたが、今後の研究では、子馬の細菌性肺炎、成馬の輸送熱や胸膜肺炎、および、疝痛馬の敗血症に続発する呼吸窮迫シンドローム(ARDS)などにおける、デジタル聴診装置の診断能を評価するのも有益だと言えます。また、デジタル聴診装置は、獣医師で無くても使用できるため、呼吸器の病態や治療への反応性の指標として、馬主が自ら計測して報告するという、遠隔診療のツールとして応用できるか否かに関しても、検証してみる価値があると考えられます。

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Photo courtesy of J Vet Intern Med. 2024 Jan 8. doi: 10.1111/jvim.16980.


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