馬の病気:労作性横紋筋融解症
馬の運動器病 - 2013年09月12日 (木)

労作性横紋筋融解症(Exertional rhabdomyolysis)について。
強度運動が引き金となって骨格筋の融解を起こす疾患で、タイングアップ(Tying-up)、慢性間欠性横紋筋融解症(Chronic intermittent rhabdomyolysis)、窒素尿症(Azoturia)、月曜の朝病(Monday morning disease)、麻痺性筋色素尿症(Paralytic myoglobinuria)、運動随伴性筋炎(Exercise-associated myositis)等の病名が用いられています。
散発性(Sporadic)の労作性横紋筋融解症は、多因子性疾患(Multifactorial disease)であると考えられており、その病因としては、過剰運動(Overexertion)、電解質不均衡(Electrolyte imbalance)、セレニウムやビタミンEの欠乏(Selenium and vitamin-E deficiency)などが関与することが示されており、可溶性糖分(Soluble sugar)の給餌やウイルス性呼吸器疾患の併発(Concurrent viral respiratory disease)などが発症素因(Predisposing factors)となることが示唆されています。一方、乳酸アシドーシス(Lactic acidosis)が横紋筋融解の原因であるとする説もありますが、労作性横紋筋融解症の羅患馬における乳酸濃度は、健常馬と同程度か低値を示すことが報告されています。
労作性横紋筋融解症の症状は、15~30分の運動によって認められ始め、強直歩様(Stiff gait)、過剰発汗(Excessive sweating)、筋線維束性収縮(Muscle fasciculation)、筋痙攣(Muscle cramping)(いわゆるコズミ症状)、動くのを拒否する仕草(Reluctance to move)、排尿姿勢に似た姿勢(筋痙攣を緩和するため?)などが認められ、重度病態においては、筋色素尿症(Myoglobinuria)や起立不能(Recumbency)を呈する場合もあります。触診では、羅患した筋肉の硬化性腫脹(Firm swelling)、熱感(Heat)、深部圧痛(Pain on deep palpation)等が触知され、血液検査では、CTおよびAST濃度の顕著な増加と、正常値回復の遅延(24時間以上)が認められます。
労作性横紋筋融解症の治療では、鎮静剤(Tranquilizer)、鎮痛剤(Analgesics)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)、DMSO等の投与が行われ、DantoleneやMethocarbamolが併用される場合もあります。また、起立不能に陥った症例に対しては、コルチコステロイド投与が有用である可能性も示唆されています。散発性の横紋筋融解症では、CTおよびAST値が正常値に回帰するまで馬房休養(Stall rest)が行われますが、多糖類貯蔵筋症(Polysaccharide storage myopathy)などの慢性労作性横紋筋融解症(Chronic exertional rhabdomyolysis)を起こす疾患では、48時間以上にわたる休養は逆効果であることが示唆されており、狭いパドックへの放牧、短時間の曳き馬運動(5~10分)の実施が推奨されています。
労作性横紋筋融解症の予防としては、良質の乾草給餌(Feeding high-quality grass hay)に併せて、可溶性糖分や澱粉を控え、脂質成分を多く含有する野菜オイル(Vegetable oil)や米糖(Rice bran)、または、可溶性糖分の含有量が少ない乾草(Brome hay, Oat hay, etc)を給与することで、脂質をエネルギー源とするような筋活動へと、緩やかに馴化させていく食餌管理指針(Dietary management strategy)が推奨されています。
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