馬の病気:篩骨血腫
馬の呼吸器病 - 2015年07月23日 (木)

篩骨血腫(Ethmoid hematoma)について。
楔形口蓋副鼻腔(Sphenoparatine sinus)の上方に位置する篩骨(Ethmoid bone)に血腫を生じる疾患で、10歳齢前後の成馬に多く発症します。特徴的な臨床所見は、軽度の間欠性鼻出血(Intermittent epistaxis )で、病態進行に伴って呼吸雑音(Respiratory noise)、顔面腫脹(Facial swelling)、発咳(Coughing)、頭部振戦(Head shaking)なども見られます。楔形口蓋副鼻腔は鼻中隔(Nasal septum)の尾側端に開口しているため、片側性(Unilateral)の篩骨血腫においても両側性(Bilateral)の鼻出血が見られる場合があることに注意します。
小型の初期病変は内視鏡検査(Endoscopy)で見つからない場合もあるため、X線検査で篩骨部腫瘤を発見したり、類似症状を示す顔骨骨折の有無を調べます。また、深部組織の内視鏡検査によって、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)や運動誘発性肺出血(Exercise-induced pulmonary hemorrhage)などの、鼻出血を呈する可能性のある他の疾患の有無を確認します。多くの篩骨血腫病変は内視鏡検査において、滑表面(Smooth surface)で黄緑色に紫斑点のある軟腫瘤として観察され、生検によって確定診断が下されます。X線検査(もしくは頭部CTスキャン)を用いて、篩骨血腫の正確なサイズと浸潤範囲の特定をすることも重要です。篩骨血腫は三割の症例で両側性に発症するため、鼻出血の有無に関わらず、必ず反対側の鼻腔の内視鏡検査も実施することが大切です。
治療としては、5cm以下の篩骨血腫では、内視鏡を介してのレーザー療法(Neodymium:yttrium-aluminum-garnet laser ablation)での治癒が報告されています。また中~大型の篩骨血腫では、内視鏡を介して3~4週間隔で病巣内へホルマリン注入(Intralesional formalin injection)を行って、血腫を退縮させる手法も有効です。しかし、篩骨血腫の浸潤が篩板穿通(Cribriform plate penetration)を引き起こし、ホルマリンが脳組織に迷入して、致死的な神経症状を呈した症例も報告されています。
篩骨血腫が肥大して周辺副鼻腔内へ浸潤した病態では、前頭鼻腔骨フラップ(Frontonasal bone flap)、または上顎骨フラップ(Maxillary bone flap)を介しての、外科的切除と病巣清掃が推奨されます。この際には、背側または腹側鼻甲介(Dorsal/Ventral concha)から鼻腔(Nasal cavity)への連絡孔を形成して、術後の滲出液の排出を促します。血腫破砕にともなう多量の出血を考慮して、10リットル程度の術中輸血(Intraoperative blood transfusion)と滅菌ガーゼの副鼻腔パッキングを実施します。また患部のレーザー処置によって、出血量の軽減と血腫再発の予防を施す手法も報告されています。
篩骨血腫は進行性疾患(Progressive disease)であるため、再発の危険は比較的高く(四割程度)、術後にも定期的な内視鏡検査を行って、もし再発した場合には、その病変が小さいうちにレーザー療法またはホルマリン療法を行うことが重要です。
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