馬の病気:ピロリジンアルカロイド中毒
馬の消化器病 - 2013年04月11日 (木)

ピロリジンアルカロイド中毒(Pyrrolizidine alkaloid toxicity)について。
肝毒性(Hepatotoxic)のあるピロリジンアルカロイドを含む植物の摂食によって、進行性の慢性肝炎(Chronic progressive hepatitis)を起こす疾患です。ピロリジンアルカロイド中毒を起こす可能性のある植物としては、ラグワート(Tansy ragwort: Senecio jacobaea)、ノボロギク(Common groundsel: Senecio vulgaris)、ワルタビラコ(Tarweed: Senecio trianularis)、セネキオ(Amsinckia: Fiddleneck)などがあり、馬は特に低濃度の毒性物質の摂取(体重の5%の植物、もしくは体重1kg当たり250gの毒性物質)によっても症状を示すことが知られています。しかし、ピロリジンアルカロイドは累積的毒性(Cumulative toxicity)を示すため、植物摂食から遅延して臨床症状の発現が見られる症例が多いことが報告されています。
ピロリジンアルカロイド中毒の症状としては、慢性肝不全(Chronic liver failure)に起因する、体重減少(Weight loss)、軽度~中程度の黄疸(Slight to moderate icterus)、運動失調(Ataxia)、紫外皮膚炎(Photodermatitis)などが挙げられますが、初期病態においてはプアパフォーマンスのみを呈する場合もあります。また、病態の経過に伴って、下痢(Diarrhea)、浮腫(Edema)、多飲症(Polydipsia)、掻痒症(Pruritus)、喉頭片麻痺(Laryngeal hemiparalysis)などの症状が見られる場合もあります。さらに、ピロリジンアルカロイドは乳汁や尿に容易に排出(Excretion)され、胎盤(Placenta)も通過するため、妊娠馬がピロリジンアルカロイド含有植物を摂食したことで、その子馬に中毒症を生じた例も報告されています。
ピロリジンアルカロイド中毒の診断では、血液検査によってGGTやALPの活性亢進が認められますが、SDH、GLDH、LDH等は初期に活性亢進が見られるものの、顕著な症状が示された段階では、正常値まで回帰している場合が殆どです。また、総ビリルビン(Total bilirubin)、抱合および非抱合型ビリルビン(Conjugated/Unconjugated bilirubin)、胆汁酸(Bile acid)等の濃度上昇が見られ、特に、胆汁酸濃度の上昇度合いは信頼性の高い予後判定の指標(Reliable prognostic parameter)となることが示唆されています。肝臓の超音波検査(Ultrasonography)では、エコー輝度の上昇(Increased echogenicity)や肝腫大(Hepatomegaly)が認められ、肝生検(Liver biopsy)による病理学的検査では、巨大細胞形成(Megalocytosis)、線維化(Fibrosis)、胆管肥厚(Bile duct proliferation)などを特徴的所見(Hallmark finding)とします。この際、類似病態を呈するアフラトキシン中毒症(Aflatoxicosis)やタチクローバー中毒症(Alsike clover toxicity)では、門脈周囲線維化(Periportal fibrosis)と胆管上皮過形成(Biliary epithelial hyperplasia)を呈するものの、巨大細胞形成は見られない事が知られています。また、乾草の成分検査でピロリジンアルカロイドを検知したり、牧草地内のピロリジンアルカロイド含有植物を発見することで推定診断(Presumptive dignosis)が下される場合もあります。
ピロリジンアルカロイド中毒の羅患馬では、急性経過(Rapid progression)を呈することが一般的で、顕著な症状が認められた場合には、5~10日以内に斃死する症例が多いことが報告されています。しかし、臨床症状が軽度で、良好な食欲を維持し、重度の肝酵素活性亢進や、重篤な病理学的線維化所見が認められない症例においては、内科的治療による治癒が期待できることが示唆されています。ピロリジンアルカロイド中毒の治療では、飼料の変更や放牧中止によって毒性物質の摂取を停止し、低蛋白や高炭水化物の給餌(Low protein and high carbohydrate diet)を基本とする飼料管理法(Dietary management)によって、肝再生を促す療法が有効です。また、同じ飼育環境内の他の個体が、不症候性(Asymptomatic)の中毒を起こしている否かを診断するため、GGT活性の経時的測定や肝生検が実施される事もあります。
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