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馬の病気:軟口蓋背方変位

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軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate: DDSP)について。

喉頭蓋(Epiglottis)が軟口蓋(Soft palate)の下部に変位して気道が妨げられる疾患です。胸骨甲状舌骨筋(Sternothyrohyoid muscle)と肩甲舌骨筋(Omohyoid muscle)の過張力によって、喉頭(Larynx)が尾方に牽引されて喉頭蓋が軟口蓋下に落ち込むことで発症すると考えられていますが、興奮時に舌根が尾側に牽引されること(Caudal retraction)(=俗に言う舌嚥下:Swallowing tongue)も病因になりうると仮説されています。また、喉頭蓋低形成(Epiglottis hypoplasia)も発症素因として挙げられていますが、この所見は原因と言うよりも、むしろDDSPに伴う二次的退行性変化(Secondary degenerative change)であるという提唱もあります。

DDSP発症馬では、運動不耐性(Exercise intolerance)や呼気性呼吸困難(Expiratory dyspnea)が典型的な臨床所見です。内視鏡検査では、喉頭蓋が軟口蓋の下方に落ち込み、喉頭蓋辺縁が観察できない所見を確認し、喉頭蓋捕捉(Epiglottic entrapment)との鑑別を行います。健常馬においても、嚥下時もしくは鼻孔閉鎖による開口呼吸時には軟口蓋が喉頭蓋上に移動するため、安静時の内視鏡検査における喉頭蓋の正常位置への戻り易さ、トレッドミル内視鏡検査における運動時のDDSPの発生頻度と遷延性を観察して、DDSPと運動不耐性の因果関係を確定します。また側方X線写真で喉頭蓋の長さを測定し、喉頭蓋低形成の評価を行います(正常値:8.8~9.4cm)。

保存的療法としては、八字鼻革を用いて開口を防いだり、W形ハミで舌を保定する方法が推奨されています。一方で、ハミ無し頭絡の使用でDDSPが防げるという提唱もされています。また、舌を前方に引き出して固定する手法(Tongue tie)によって、喉頭を頭側に牽引しDDSPを予防する手法も試みられています。

外科的療法としては、胸骨甲状筋切除術(Sternothyromyectomy)、胸骨舌骨筋切除術(Sternohyoidmyectomy)、肩甲舌骨筋腱切除術(Omohyoid tenectomy)によって、喉頭に作用する尾側方向への張力を軽減し、喉頭蓋を軟口蓋上に停留させる方法が推奨されています。また、甲状軟骨(Thyroid cartilage)と舌骨底骨(Basihyoid bone)との間に渡した縫合糸で、喉頭蓋の上方反転を軽減する喉頭タイフォワード手術(Laryngeal tie-forward surgery)も有効であることが示唆されています。一方、口蓋帆切除術(Staphyrectomy)による瘢痕形成、レーザー照射による焼灼口蓋形成術(Thermal palatoplasty)、口腔粘膜部分切除による張力口蓋形成術(Tension palatoplasty)などで軟口蓋の緊張度を増す方法も試みられます。さらに、喉頭蓋低形成が発症原因と疑われる症例には、充填剤注入による喉頭蓋増強術(Epiglottic augmentation)が施される事もあります。

DDSPに対する保存的および外科的療法では、完治が達成できない症例も多く、治療の成功率は、保存性療法では五割~六割、筋切除術および筋腱切除術では六割~七割にとどまっています。また、喉頭タイフォワード手術では、術後の側方X線写真によって、喉頭蓋尖端や喉頭軟骨が前方および背側に移動していることが確認され、治療成功率は、筋切除術および筋腱切除術よりも二割程度優れていることが報告されています。

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