馬の病気:口蓋裂
馬の呼吸器病 - 2015年07月25日 (土)

口蓋裂(Cleft palate, palatoshisis)について。
先天性に軟口蓋(Soft palate)もしくは硬口蓋(Hard palate)の正中部欠損(Midline defect)を呈する疾患です。口蓋襞(Palatal folds)の発生学的閉鎖妨害(Embryologic palatal interruption)に起因しますが、馬では人間や他の動物に見られる口唇および上顎の欠損は報告されていません。遺伝性(Genetic)、栄養性(Nutritional)、機械性(Mechanical)、催奇形物質(Teratogens)などの関与が素因として挙げられていますが、発症メカニズムは未だに解明されていません。
症状としては、鼻孔からの飲乳漏出、発咳(Coughing)、誤嚥(Aspiration)、嚥下障害(Dysphagia)などが見られます。口蓋裂は、口腔咽頭部の視診もしくは触診で発見されることもありますが、確定診断は内視鏡検査(Endoscopy)で下されます。無処置の個体では、致死的な肺炎や栄養失調などの合併症を起こしますが、口蓋幅の20%以上が欠損した症例では外科的整復は困難であるため、安楽死(Euthanasia)が選択される場合が殆どです。多くの症例で速やかな口蓋形成術(Palatoplasty)の実施を要しますが、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)が軽度の場合には手術を遅延することで、呼吸器症状の改善、成長による中咽頭腔(Oropharynx space)の拡大と、口蓋組織の強度が増して縫合糸の保持が容易となることが期待できます。
外科的療法では、まず気管切開術(Tracheotomy)で気道を確保します。軟口蓋裂部への到達は、皮膚と歯肉(Gingiva)の切開、下顎骨切開術(Mandibular symphysiotomy)、舌根横切開と舌の外転、舌骨筋郡(Mylohyoid, Geniohyoid, Genioglossus muscles)の切開、頬側粘膜(Bucal mucosa)の切開を介して行われます。口蓋裂の病態では、異常な走行をしている口蓋咽頭筋(Palatopharyngeus)の牽引力によって縫合糸の劣化や断裂が起きるため、口蓋裂部粘膜を水平切開してこの走行を断ち切ります。そして、鼻腔側粘膜をまず縫合し、次に口腔粘膜と筋層を一緒に縫合したあと、臼歯沿いの外側粘膜を縦切開して軟口蓋への緊張度減少(Tension-relieving incisions)を施します。軟口蓋裂の尾側縁の縫合を容易にするため、経口アプローチに喉頭切開術(Laryngotomy)と甲状軟骨矢状切開(Thyroid cartilage sagittal section)を併用する術式も報告されています。
硬口蓋裂部への到達は、上記と同様の手法で行われます。裂部の整復のため、粘膜骨膜フラップ(Mucoperiosteal flap)を形成したあと、鼻腔側粘膜をまず縫合し、フラップの辺縁同士を水平マットレス縫合(Horizontal mattress suture)で結合させます。軟口蓋と硬口蓋の両方が整復された場合には、1~2週間は胃カテーテルを介しての給餌が推奨されます。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.