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馬の病気:喉頭片麻痺

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喉頭片麻痺(Laryngeal hemiplegia)について。

反回神経(Recurrent laryngeal nerve)の異常に起因して、披裂軟骨を外転(Abduction)および内転(Adduction)させる機能を担う背側輪状披裂筋(Criocoarytenoideus dorsalis)が麻痺することによって、気道狭窄と呼吸障害を起こす疾患で、九割以上が左側に発症します。病因としては、特発性の軸索変性(Axonal degeneration)、外傷性損傷、静脈注射による医原性損傷、喉嚢真菌症(Guttural pouch mycosis)、腺疫膿瘍(Strangle abscessation)の波及、毒性植物の摂食(Cicer arietnium、Lathyrus spp)、神経毒性化学物質の摂取(鉛性剤、有機リン性剤)などが挙げられています。

初期の病態では、休息時には無症候で軽度の運動不耐性(Exercise intolerance)を示すのみですが、病態の進行に伴って運動時の喘鳴音(Roaring、Whistling)や吸気性呼吸困難(Inspiratory dyspnea)を呈します。披裂軟骨の対称性と可動性の度合いは、以下のグレード1~4の評価法で記述されます。

グレード1: 披裂軟骨の動きすべてが左右同調し左右対称で、完全な披裂軟骨の外転が可能で維持されうる。

グレード2: 披裂軟骨の動きは同調せず、かつ、あるいは、喉頭は左右不対称なときがあるが、披裂軟骨の完全な外転は可能で維持されうる。
(グレード2a: 短時間の不同調、震える動き、あるいは遅れた動きが認められる。)
(グレード2b: 披裂軟骨と声帯ヒダの動きの減少により声門裂の左右不対称を多くの時間認めるが、時には、嚥下時や鼻孔を閉じた時などには、完全な外転が可能で維持される。)

グレード3: 披裂軟骨の動きは左右同調せず、そして、あるいは左右不対称。披裂軟骨の完全な外転は不可能で維持されない。
(グレード3a: 披裂軟骨と声帯ヒダの動きの減少により、声門裂の左右不対称を多くの時間認めるが、時には、嚥下時や鼻孔を閉じた時などには、完全な外転が可能である。しかし、維持されない。)
(グレード3b: 披裂外転筋が衰えていることが明らかで、披裂軟骨は左右不対称。完全な外転が起こることはまったくない。)
(グレード3c: 披裂外転筋が衰えていることは明確だが完全ではなく、披裂軟骨は左右不対称だがわずかには動く。完全な外転が起こることはまったくない。)

グレード4: 披裂軟骨と声門裂はまったく動かない。

喉頭片麻痺の確定診断は、内視鏡検査で披裂軟骨の対称性と可動性を評価することで下されますが、休息時に異常所見が見られるのは重度の病態のみであるため、運動直後の内視鏡検査、もしくはトレッドミルやダイナミック内視鏡機器を用いた、運動時の内視鏡検査が推奨されています。古典的診断法としては、胸壁を強叩後に呻吟音を発生することを観察する方法(いわゆるSlap test)もあります。また、下顎部の触診によって、非対称性の喉頭筋萎縮(Laryngeal muscle atrophy)を確かめる手法も有効です。

外科的治療法では、補綴性の喉頭形成術(Prosthetic laryngoplasty)と声嚢切除術(Ventriculectomy)が一般に施されます。喉頭形成術では、輪状軟骨(Cricoid cartilage)と披裂軟骨筋肉突起(Arytenoid cartilage muscular process)のあいだに渡した縫合糸で披裂軟骨を外転位置に固定することによって、気道の確保と呼吸困難の改善を行います。この際、誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)を防ぐため、過剰矯正による披裂軟骨の外転過多に注意が必要です。一方、声嚢切除術では、吸気圧による喉頭室の膨張と振動を無くす結果、気道狭窄と喘鳴音の発生を軽減する事が期待できます。また、若馬の症例においては、肩甲舌骨筋(Omohyoid muscle)の神経筋接合根部移植(Neuromuscular pedicle graft)によって、背側輪状披裂筋を神経再支配(Reinnervation)して外内転機能を取り戻す方法も試みられています。

喉頭片麻痺の予後は、予測が困難な場合が多く、完治に至らない症例もあります。喉頭形成術では、五割~七割の症例で競走能力の向上(Improvement of racing performance)が期待されますが、呼吸器雑音の強弱で気道閉塞の判断をするのは適切ではない、という警鐘が鳴らされています。また、披裂軟骨の外転がほぼ完全に達成された場合でも、競走時の速度では通気制限(Airflow limitations)は残るため、喉頭形成術はあくまで救済療法(Salvage procedure)であるという認識が重要です。

Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

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