馬の病気:第四鰓弓欠損症候群
馬の呼吸器病 - 2015年07月26日 (日)

第四鰓弓欠損症候群(Fourth branchial arch defect syndrome: “4-BAD syndrome”)について。
馬の喉頭組織のうち、甲状軟骨外側翼(Lateral wings of the thyroid cartilage)、輪状披裂関節(Cricoarytenoid articulation)、輪状甲状筋(Cricothyroid muscle)、甲状咽頭筋(Thyropharyngeus muscle)、輪状咽頭筋(Cricopharyngeus muscle)は、発生学的に第四鰓弓(Embryological fourth branchial arch)に由来することが知られており、これらの組織の両側性または片側性の異常発生(Abnormal development)を、第四鰓弓欠損症候群と呼んでいます。
第四鰓弓欠損症候群の症状としては、喉頭部の軟部組織または軟骨組織の動的虚脱(Dynamic collapse of soft tissues or cartilaginous laryngeal tissues)に起因する、運動誘発性の呼吸器雑音(Exercise-induced respiratory noise)で、右側の組織に好発することが知られています。重度の変形(Severe deformity)を呈した症例では、呼吸器不全(Respiratory incompetence)、嚥下障害(Dysphagia)、回帰性疝痛(Repeated colic)(=食道頭側部の括約筋機能不全のため)などを起こす場合もあります。
第四鰓弓欠損症候群の診断では、喉頭部の触診において、甲状軟骨翼が触知できなかったり(両側または片側)、輪状甲状筋の欠損または萎縮(Absence/Atrophy of the cricothyroid muscle)によって輪状軟骨と甲状軟骨のあいだに明瞭な隙間(Gap between the cricoid and thyroid cartilages)が触知されます。また、内視鏡検査(Endoscopic examination)においては、口蓋咽頭弓の吻側変位(Rostral displacement of palatophryngeal arch)が特徴的所見で、右側の喉頭片麻痺(Right-sided laryngeal hemiplesia)が疑われる症例では、第四鰓弓欠損症候群を第一の鑑別診断(Differential diagnosis)とすることが推奨されています。そして、側方X線検査(Lateral radiography)では、食道括約筋の機能異常に起因して、上部食道内と咽頭内の空気が隣接している所見が認められます。
第四鰓弓欠損症候群に対する有効な治療法は確立されていませんが、喉頭片麻痺の疑いから、披裂軟骨切除術(Arytenoidectomy)が行われる症例もあります。乗用馬では、第四鰓弓欠損症候群を持ったままある程度の運動使役に耐えられますが、完全な運動能力の発揮には至らないことが知られています。第四鰓弓欠損症候群の罹患馬のうち、高速運動中の内視鏡検査において、口蓋咽頭弓の吻側変位や動的虚脱(Dynamic collapse)が確認されて、披裂軟骨の虚脱を伴っていない場合には、喉頭タイフォワード手術(Laryngeal tie-forward surgery)も有効であることが示唆されています。
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