馬の病気:喉嚢蓄膿症
馬の呼吸器病 - 2015年07月29日 (水)

喉嚢蓄膿症(Guttural pouch empyema)について。
喉嚢内に化膿性滲出物(Purulent exudate)と類軟骨(Chondroids)が貯留する疾患で、多くの場合ストレプトコッカス菌の感染(腺疫:Strangles)に起因する咽頭リンパ節膿瘍(Retropharyngeal lymph node abscess)が、喉嚢内へ破裂することによって発症します。また、茎突舌骨骨折(Stylohyoid bone fracture)、咽頭開口部狭窄(Pharyngeal orifice stenosis)、経鼻カテーテルによる咽頭穿孔(Pharyngeal perforation)なども病因として挙げられています。
喉嚢蓄膿症の症状としては、間欠性鼻汁漏出(Intermittent nasal discharge)、リンパ節腫脹(Lymph node swelling)、耳下腺圧痛(Parotid pain)、頭部伸展姿勢(Extended head carriage)、重度の呼吸器雑音(Excessive respiratory noise)、嚥下困難(Dysphagia)などが見られ、稀に鼻出血(Epistaxis)や喉頭麻痺(Laryngeal paresis)を呈する症例もあります。内視鏡検査(Endoscopy)では、喉嚢開口部からの化膿性物漏出(Purulent discharge)が認められ、重度の病態では喉頭圧潰(Pharyngeal collapse)を併発します。また、側方X線検査(Lateral radiography)によって、蓄膿と類軟骨の形成を診断します。血液検査では、白血球数の増加とフィブリノーゲン濃度の上昇が見られます。
喉嚢蓄膿症の内科的治療では、留置カテーテル(Indwelling catheter)もしくは内視鏡の生検導管(Biopsy channel)を介しての、喉嚢洗浄が行われます。咽頭部への開口部は喉嚢の吻背側に位置するため、喉嚢内貯留物を効果的に排出させるためには、鎮静剤投与によって頭部を低い位置にしながら洗浄液を注入することが必要です。初回の喉嚢洗浄時には、化膿性滲出物を無菌的に採取して、抗生物質の感受性試験(Antimicrobial susceptibility)を行います。殺菌剤および消毒剤の喉嚢内注入は、頭部神経炎(Cranial neuritis)を引き起こすため、一般に禁忌(Contraindication)とされています。抗生物質の喉嚢内投与は通常は必要とされませんが、病態に応じて非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)と抗生物質の全身投与が行われる事もあります。
内科的治療に不応性(Refractory)の場合や、長期のカテーテル留置による炎症および圧迫壊死(Pressure necrosis)を起こした場合、または、喉嚢開口部からの類軟骨除去が困難である場合などには、外科的に喉嚢を切開しての貯留物の排出が推奨されます。喉頭圧潰によって呼吸困難(Dyspnea)を呈する症例では、喉嚢切開術の前に気管切開術(Tracheotomy)を施して気道を確保します。また、咽頭開口部狭窄に起因する喉嚢蓄膿症では、レーザー手術を用いて、咽頭への瘻孔(Pharyngeal fistula)を形成する手法も試みられています。
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