馬の病気:側頭舌骨変形性関節症
馬の呼吸器病 - 2015年07月29日 (水)

側頭舌骨変形性関節症(Temporohyoid osteoarthropathy)について。
血行性(Hematogenous)もしくは中耳(Middle ear)からの感染によって、側頭舌骨関節(Temporohyoid joint)が融合を起こす疾患です。その結果、舌や咽頭からの圧力や負荷によって斜体側頭骨(Petrous temporal bone)が骨折して、顔面神経(Facial nerve)、内耳神経(Vestibulocochlear nerve)、舌咽神経(Glossopharyngeal nerve)、迷走神経(Vagus nerve)などの損傷を引き起こします。また、慢性症例では、細菌性中耳炎(Bacterial otitis media)の脳幹内浸潤による、硬膜外膿瘍(Epidural abscess)や髄膜炎(Meningitis)などの合併症も報告されています。
側頭舌骨変形性関節症の初期症状としては、頭部を激しく上下させる仕草(Head tossing)、耳を擦り付ける仕草(Ear rubbing)、ハミの装着拒否(Refusing to take the bit)、騎乗時のハミ受け拒否などが見られることがあります。病態の進行に伴って、内耳神経異常に起因する非対称性運動失調(Asymmetric ataxia)、捻転斜頚(Head tilt: poll to the affected side)、自発性眼振(Spontaneous nystagmus: slow component to the affected side)、もしくは、顔面神経異常に起因する耳運動不全麻痺(Ear paresis: on the affected side)や上唇偏位(Upper lip deviation: away from the affected side)などが観察されます。また、眼瞼閉鎖不全を呈した症例では、重篤な角膜潰瘍(Corneal ulcer)を続発する場合もあります。
側頭舌骨変形性関節症の診断は、喉嚢(Guttural pouch)の内視鏡検査(Endoscopy)において、舌骨郡の肥厚化と神経損傷を視認することで下されますが、側方X線写真(Lateral radiographic image)によって、骨炎や骨増殖を確認する事も重要です。また、CTスキャンを用いることで、内耳と中耳内の骨組織と軟部組織の損傷を正確に診断できることも示されています。
側頭舌骨変形性関節症の治療としては、片側性(Unilateral)の茎部舌骨部分切除術(Stylohyoid partial ostectomy)によって、仮関節形成(Pseudoarthrosis)を施すことで、融合した側頭舌骨への負荷減退が行われます。しかしこの手法では、一過性嚥下障害(Transient dysphagia)や舌下神経損傷(Hypoglossal nerve damage)の危険があり、また術後数ヶ月で、茎部舌骨の切除端再生と神経症状の再発がおこる可能性も示唆されています。他の術式としては、茎部舌骨の下部に結合するCeratohyoid boneを切除する事で、側頭舌骨の負荷を減少させる手法も試みられており、手技的に簡易かつ安全で、術後には持続性効果が期待できる事が示唆されています。
骨切除術後には、抗生物質と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が行われますが、側頭舌骨の負荷減退が奏功した場合でも、損傷した神経の治癒と神経症状の消失には長時間を要するため、出来る限り早期に外科的療法を施すことが提唱されています。また、慢性の角膜潰瘍の治療のために、一時性の瞼板縫合術(Temporary tarsorrhaphy)が応用される事もあります。
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