馬の病気:間質性肺炎
馬の呼吸器病 - 2015年07月31日 (金)

間質性肺炎(Interstitial pneumonia)について。
間質性肺炎は、慢性進行性(Chronic progressive)の経過をとる肺線維症(Pulmonary fibrosis)を指し、主に感染性または毒物誘発性に発症する疾患ですが、診断上、原因菌または原因物質が確定できないことも多々あります。感染性の間質性肺炎の原因としては、五型馬ヘルペスウイルス(Equine herpesvirus type 5: EHV-5)(いわゆる馬多発結節性肺線維症:Equine multinodular pulmonary fibrosis: EMPF)、ニューモシスチスカリニ(Pneumocystis carinii)、マイコプラズマ属菌(Mycoplasma spp)などが挙げられています。また、毒物性の間質性肺炎の原因としては、ピロリジンアルカロイド(Pyrrolizidine alkaloid)を含む植物(Crotalaria, Trichodesma, Senecio, etc)、Crofton Weed(Eupatorium adenophorum)、Perilla ketoneを含む植物(Perilla fructans)、煙吸引(Smoke inhalation)、酸素中毒(Oxygen toxicity)、パラコート農薬(Paraquat agrichemicals)などが報告されています。また、粉塵に対する過敏症(Hypersensitivity)や内毒素(Endotoxin)に対する炎症性・代謝性増幅反応(Inflammatory and metabolic cascade)などの関与も指摘されています。間質性肺炎の病態は、肺胞炎(Alveolitis)、増殖段階(Proliferative phase)、間質線維症(Interstitial fibrosis)の順に進行し、最終的には終末不回帰性線維症(End-stage irreparable fibrosis)を引き起こします。
間質性肺炎の症状としては、発熱(Fever)、発咳(Coughing)、体重減少(Weight loss)、鼻汁漏出(Nasal discharge)、運動不耐性(Exercise intolerance)、重度呼吸困難(Severe dyspnea)、チアノーゼ(Cyanosis)、拘束性呼吸パターン(Restrictive breathing pattern)、腹斜筋肥厚に伴う息労線(いわゆるHeaves line)の出現などが見られます。
間質性肺炎の診断では、血液検査において、白血球増加症(Leukocytosis)と線維素増加症(Hyperfibrinogenemia)が顕著に起こっている点で、類似疾患である回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction)との鑑別を試みます。しかし、細菌性気管支肺炎(Bacterial bronchopneumonia)においても同様な結果を呈するため、信頼性の高い診断のためには、胸部X線検査(Thoracic radiography)によって広範囲の間質性パターン(Interstitial pattern)や結節性浸潤(Nodular infiltration)などの所見を確認します。気管気管支吸引液(Tracheobronchial aspiration)または気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage)を用いての細胞診断(Cytologic examination)では、好中球と大食細胞の増加を呈し、細菌性肺炎とは異なり細菌培養(Bacterial culture)での有意な原因菌の分離は見られません。EMPF症例では、PCR法を介してEHV-5を探知する手法も試みられています。間質性肺炎の確定診断(Definitive diagnosis)には、肺生検(Lung biopsy)を使用しての組織学的検査(Histologic examination)が必要ですが、生検針穿刺による重篤な出血を防ぐため、胸腔鏡検査(Thoracoscopy)を介して検体採取を行う手法も報告されています。また、循環器検査によって、肺高血圧(Pulmonary hypertension)や肺性心(Cor pulmonale)などの合併症の有無を確認することも大切です。
間質性肺炎の治療としては、非経口的コルチコステロイド療法(Parenteral corticosteroid therapy)が最も重要で、デキサメサゾンやベクロメサゾンなどの投与が行われます。また、感染性の間質性肺炎の可能性を考慮して、広域抗生物質療法(Broad-spectrum antimicrobial therapy)も併行して行われ、気管気管支吸引液を用いての抗生物質の感受性試験(Susceptibility test)によって、使用薬を選択することが原則とされます。重篤な呼吸困難を呈する症例では(特に子馬の場合)、経鼻酸素療法(Nasal oxygen therapy)も有効ですが、吸入チューブによる気道閉塞(Airway obstruction)を引き起こさないように慎重に行う事が大切です。さらに、気管支拡張剤(Bronchodilator)によって呼吸症状の改善が試みられる事もありますが、換気灌流不適正(Ventilation-perfusion mismatch)の危険を考慮して、酸素療法を併用しながら実施することが推奨されています。肺性心を起こした症例では、フロセマイド投与による気管支拡張作用を介して、肺動脈圧減退が施される事もあります。
間質性肺炎は一般に、進行性の病態を呈し、予後は不良となる場合が多いですが、子馬のP. carinii肺炎および成馬のEMPF症例では、積極的なコルチコステロイド療法によって、比較的良好な予後が期待できることが報告されています。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.