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馬の病気:横隔膜ヘルニア

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横隔膜ヘルニア(Diaphragmatic hernia)について。

成馬の後天性(Acquired)の横隔膜ヘルニアは、外傷性(転倒、蹴傷、強運動、骨折肋骨端による穿孔、etc)もしくは腹圧の急激な上昇(種付け、出産、難産、etc)によって起こり、また子馬では、胚性横隔膜コンパートメント(Embryonic diaphragm components)の癒合不全による先天性(Congenital)横隔膜ヘルニアも報告されています。先天性横隔膜ヘルニアが最腹側部(Most ventral portion)の横隔膜に好発するのに比べて、後天性横隔膜ヘルニアはサイズが大きく、背側の筋腱結合部(Muscular tendinous junction)に好発することが知られています。極めて稀な症例として、横隔膜裂孔を介しての腹膜心外膜ヘルニア(Peritoneopericardial hernia)を呈した先天性病態も報告されています。ヘルニア孔には小腸が最も頻繁に捕捉されますが、大結腸、肝臓、脾臓、大網などが移入することもあります。

横隔膜ヘルニアにおいて、呼吸器不全(Respiratory compromise)と腸閉塞(Intestinal obstruction)が軽度な初期病態では、運動不耐性(Exercise intolerance)や体重減少(Weight loss)が見られるのみの場合もありますが、病状の進行に伴って、疝痛(Colic)、頻呼吸(Tachypnea)、内毒素性ショック(Endotoxic shock)などの症状を呈します。多くの症例において、ヘルニア輪の嵌頓(Hernia ring incarceration)を生じるため、呼吸器症状よりも腸閉塞に起因する疝痛症状が顕著に認められます。そのため、開腹手術前に横隔膜ヘルニアの診断が下されない事も多く、また、移入小腸が手術時に遊離していた場合には、腹腔内に壊死した腸管のみが認められ、ヘルニア孔が見落とされる可能性も示唆されています。

横隔膜ヘルニアの診断では、胸部X線検査(Thoracic radiography)によって、消化管の胸腔内移入(Intestinal migration into thoracic cavity)を確認することが有効ですが、胸部超音波検査(Thoracic ultrasonography)によって胸腔内に迷入した消化管を発見できる場合もあります。胸部聴診(Thoracic auscultation)では、胸腔内消化管の蠕動音(Pristalsis)が探知できますが、腹腔内消化管からの遠隔性蠕動音との区別は難しいと考えられています。小腸絞扼(Small intestine strangulation)を起こした症例においては、羅患部の腸は胸腔内に位置しているため、腹水検査(Abdominocentesis)は通常正常値で、胸水検査(Thoracocentesis)において蛋白濃度と白血球数の増加が認められます。胸腔鏡検査(Thoracoscopy)によってヘルニア孔を発見するためには、肺の部分収縮(Partial lung deflation)を要するため、更なる呼吸器症状の悪化を引き起こす危険もあります。

横隔膜ヘルニアの外科的整復は、ヘルニア孔が腹側に位置するほど容易ですが、背側ヘルニア孔の場合にも、切開創を頭側へ進展させたり、手術台を尾側傾斜させたり、時には開胸術(Thoracotomy)を介することで、アプローチが可能となる事もあります。小径のヘルニア孔(5cm以下)においては、単純連続縫合による閉鎖が行われ、通常はヘルニア輪の切除は必要とされません。大径のヘルニア孔においては、合成メッシュを用いてのヘルニア縫合術(Synthetic mesh herniorrhaphy)が施されます。術後における気胸(Pneumothorax)の危険を最小限にするため、ヘルニア孔整復は最大肺吸気状態(Maximal lung inflation)で完了させる事が重要で、一方通行弁(Heimlich valve, etc)を組み合わせた胸腔管(Indwelling chest tube)を留置することが推奨されています。

外科的整復が奏功した小径の横隔膜ヘルニアの予後は一般に良好ですが、ヘルニア孔のサイズや位置によっては縫合部の再裂傷を起こし予後不良となる場合もあります。縫合不能なヘルニア症例においても、孔辺縁が胃または肝臓と癒着を起こすことで、ヘルニア孔の閉鎖が見られる事もありますが、小腸が再捕捉を起こす危険も示唆されています。

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