馬の病気:肋骨骨折
馬の呼吸器病 - 2015年07月31日 (金)

肋骨骨折(Rib fracture)について。
肋骨の骨折は、成馬においては主に外傷性(転倒、衝突、蹴傷、etc)に起こるのに比べ、子馬においては主に出産時の胸郭圧迫によって起こり、初産牝馬(Primiparous mare)または難産(Dystocia)の症例において多く発症します。殆どの肋骨骨折は無症候性(Asymptomatic)で、自然治癒する場合が多いですが、骨折鋭端による体腔穿孔を引き起こすこともあります。この場合、頭側胸部での肋骨骨折では心裂傷(Cardiac laceration)と突然死(Sudden death)を、中央胸部での肋骨骨折では肺裂傷(Pulmonary laceration)、血胸症(Hemothorax)、気胸症(Pneumothorax)等を、そして尾側胸部での肋骨骨折では横隔膜穿孔とヘルニア(Diaphragmatic laceration and hernia)を続発する危険が高い事が示唆されています。
肋骨骨折の症状としては、浅呼吸(Shallow breathing)、触診痛(Pain on palpation)、呼吸痛に伴う呻き声(Groaning)や不平声(Grunting)、骨折部とその腹側領域での皮下浮腫(Subcutaneous edema)などが見られます。聴診での捻髪音(Crepitation)は、子馬の肋骨骨折では顕著ですが、成馬の肋骨骨折ではあまり有用な診断指標でないことが知られています。複数の肋骨が損傷した場合には(特に子馬において)、胸郭動揺(Flail thorax)に特徴的な吸気時の胸壁圧潰(Thoracic collapse in inspiration)が観察され、呼吸困難(Respiratory distress)または胸郭非対称性(Thoracic asymmetry)などを呈する症例もあります。
肋骨骨折診断には、胸部超音波検査(Thoracic ultrasonography)が最も有効で、骨折部位の特定だけでなく、周囲軟部組織の損傷度合いや、血胸症、気胸症、横隔膜ヘルニアの診断にも効果的です。子馬における肋骨骨折では、頭尾側胸域で肋軟骨接合部(Costochondral junction)に好発することが報告されています。胸部X線検査(Thoracic radiography)によって骨折を発見することも出来ますが、骨折線の判定が時に困難で(特に成馬において)、また左右どちらの胸郭で、何番目の肋骨が骨折しているかが不明瞭な場合もあります。
骨折端による体腔穿孔を伴わない肋骨骨折の症例においては、保存的療法(Conservative treatment)が試みられ、1~3週間の馬房休養(Stall rest)によって良好な骨折治癒が起きることが知られています。呼吸時の胸壁拡張による疼痛を緩和するため、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与、肋間神経局所麻酔(Local intercostal nerve block)、骨折端を切削して滑らかにする、などの手法が用いられます。重度の疼痛を呈する子馬の症例では、多くの場合に起立や授乳を補助する事が必要で、胸骨臥位(Sternal recumbency)から肘部を持ち上げることで起立させ、更なる損傷肋骨部位への圧迫を防ぐことが重要です。胸郭動揺を起こした子馬の症例では、鎮静剤によって出来るだけ長時間にわたって側臥位をとることが試みられ、この際には、正常側の胸壁が上になるように寝かせ、低酸素症(Hypoxemia)の度合いに応じて経鼻酸素補給療法(Oxygen supplementation via nasal insufflation)が行われます。
子馬の肋骨骨折において、致死的な合併症の危険が高いと判断された場合には(重篤な胸郭動揺が起きた場合、骨折鋭端が心臓付近に位置している場合、etc)、骨折部の外科的整復が行われる事もあります。術式としては、プレート固定と周回ワイヤー(Cerclage wire)を用いた内固定術によって、良好な骨折治癒が期待できる事が報告されています。
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