馬の病気:炎症性気道疾患
馬の呼吸器病 - 2015年07月31日 (金)

炎症性気道疾患(Inflammatory airway disease: IAD)について。
軽度~中程度の気道炎症(Airway inflammation)と粘液貯留(Mucus accumulation)を起こす疾患のうち、若馬に起こる病態をIADと定義することが提唱されており、壮齢馬に起こる回帰性気道閉塞(Recurrent airway obstruction: RAO)(いわゆる息労:Heaves)とは区別されています。病因としては、有機物粉塵(Organic dusts)の吸引、非症候性のウイルスまたは細菌感染(Asymptomatic viral or bacterial infection)などが挙げられ、気道反応性亢進(Airway hyperresponsiveness)も素因であると考えられています。
炎症性気道疾患の症状としては、運動不耐性(Exercise intolerance)、プアパフォーマンス、発咳(Coughing)、鼻汁排出(Nasal discharge)などが見られます。細胞診断(Cytologic examination)では、気管気管支吸引液(Tracheobronchial aspiration)よりも気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage: BAL)を用いての診断が推奨されており、好中球(Neutrophils)、肥満細胞(Mast cells)、好酸球(Eosinophils)、リンパ球(Lymphocytes)などの浸潤が見られます。この際、好中球の割合が少ない所見で(2~15%)、RAOとの鑑別診断(Differential diagnosis)を行い、有意な細菌増殖が見られない所見で、細菌性肺炎(Bacterial pneumonia)との鑑別診断が行われます。病態の重篤度によっては、内視鏡検査(Endoscopy)による顕著な肺胞気管支部の粘液貯留が観察される場合もあります。胸部X線検査(Thoracic radiography)や肺機能試験(Lung function testing)によるIADの診断も試みられていますが、有用性はあまり高くありません。
炎症性気道疾患の治療としては、飼養環境管理(Environmental management)を第一方針とし、掃掃除の前に水を撒くこと、馬房上部での乾草保存を止めること、加湿器を用いて粉塵を減らすこと、湿らせた乾草を給餌すること、等が推奨されています。内科療法では、経口または吸引療法(Inhalation therapy)によるコルチコステロイド投与が行われ、BAL中の好中球数減少効果が示されています。また、気管支拡張剤(Bronchodilator)の併用も頻繁に行われ(経口または吸引)、コルチコステロイド吸引の5~15分前に、気管支拡張剤を吸引させることで、コルチコステロイドの吸収を向上できる可能性が示唆されています。そして、副交感神経遮断薬(Parasympatholytic drug: Ipratropium, etc)も気管支拡張のため用いられています。さらに、気道反応性亢進の関与を考慮して、肥満細胞抑制剤(Mast cell inhibitors: Cromoglycate)によるIAD治療も試みられていますが、好中球介在性の炎症病態に対する効能は明らかにされていません。
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