馬の病気:原虫性脊髄脳炎
馬の神経器病 - 2015年08月01日 (土)

馬原虫性脊髄脳炎(Equine protozoal myeloencephalitis: EPM)について。
肉胞子虫(Sarcocystis neurona)や他の原虫類(Neospora hughesi、Toxoplasma gondii等)の感染によって脊髄脳炎を呈する疾病で、北米において最も多く見られる馬の神経症状の原因です。S. neuronaは終宿主のオポッサムと、他の中間宿主(猫、アルマジロ、スカンク等)のあいだで生活環を形成し、馬は異常宿主(Aberrant host)であるため、馬から馬への感染は起こりません。多くの無発症馬が血清抗体の陽性反応を示すことから、原虫曝露と同時期に、輸送、重度の調教、出産などのストレスが重なることで、感染と発病に至ると考えられています。
馬原虫性脊髄脳炎の臨床症状としては、非対称性の歩行失調(Asymmetric ataxia)、固有受容性欠陥(Proprioceptive deficit)、虚弱(Weakness)、筋萎縮(Muscle atrophy)、感覚消失(Sensation loss)、痙攣(Spasticity)等が見られます。脳幹異常を伴う症例では、傾頸(Head tilt)、顔面麻痺(Facial paralysis)、嚥下障害(Dysphagia)、反射減退(Hypoflexia)もしくは亢進(Hyperflexia)、眼振(Nystagmus)、起立困難などを示します。脳脊髄液(Cerebrospinal fluid: CSF)の検査で、S. neurona抗体の陽性反応を調べることで、信頼性の高い診断が下されます。血清中の抗体がCSFへ漏出していない事を示すため、血清とCSFのアルブミンもしくは免疫グロブリンG濃度を比較することが重要です。また、PCR法を用いてのより高感度な診断法も検討されています。一般にCSF検査では、蛋白濃度、単核細胞数、CKおよびAST濃度が僅かに上昇しますが、EPMに特異的な変化ではありません。
馬原虫性脊髄脳炎の根治療法としては、スルホンアミド・ピリメタミン合剤(Sulfonamides and pyrimethamine)、トリアジン誘導薬(Triazine derivative drug)、抗コクシジウム薬(Anticocidial drug)などが用いられます。この際、適切な薬用量と投与期間に関しては論議があり、投薬中止後に感染の再発(Relapse)が起こる危険も報告されています。また、対症療法としては、抗炎症剤による重度神経症状の制御と、免疫修飾薬(Immunomodulator)、葉酸補助剤(Folic acid supplementation)、ビタミンE補助剤(Vitamin E supplementation)などの使用も試みられています。
馬原虫性脊髄脳炎の予防として、ワクチンによる確実な神経症状の発症防止は未だに確立されていません。また、危険因子(Risk factors)を取り除くため、輸送、調教、出産時の健康管理、牧場内清掃による宿主動物との曝露減少などが有効です。さらに、間欠的な免疫修飾薬の投与によって、EPMを予防する試みも報告されています。
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