馬の病気:橈骨神経麻痺
馬の神経器病 - 2015年08月03日 (月)

橈骨神経麻痺(Radial nerve paralysis)について。
橈骨神経(Radial nerve)は前肢の伸筋郡を支配する末梢神経(Peripheral nerve)で、肘関節(Elbow joint)の外側を通過する部位で損傷を受け易いことが知られています。橈骨神経麻痺は外傷(転倒、蹴傷、etc)または横臥位(Lateral recumbency)による長時間にわたる全身麻酔(Prolonged general anesthesia)などによって引き起こされ、上腕三頭筋(Triceps brachii muscle)の退行も素因となることが示唆されています。
橈骨神経麻痺の臨床症状は、神経の損傷部位によって異なり、肘関節周辺部での損傷では高位橈骨神経麻痺(High radial nerve paralysis)を起こし、肘部脱落(Dropped elbow)、肢伸展不能(Failure of limb protraction)、遠位肢屈折(Distal limb flexion)等の所見を呈し、患肢への負重はできません。一方、肘関節より遠位部での損傷では低位橈骨神経麻痺(Low radial nerve paralysis)を起こし、手根関節、球関節、冠関節のナックリングを呈しますが、管部と遠位肢を伸展位置に保持することで患肢への負重は可能です。三角筋反射(Triceps reflex)は通常、消失または減退します。慢性病態では、伸筋郡の萎縮(Atrophy)が見られますが、皮膚触覚欠損(Skin sensory deficits)の有無・範囲は曖昧で個体差があります。
橈骨神経麻痺の治療としては、コルチコステロイドや非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が有効で、デメロールやモルフィン等による鎮痛を要する場合もあります。患馬は充分な敷料を施したパッドで覆われた馬房に移動させ、つまずいたり転倒による更なる外傷を予防します。起立不能な症例では頻繁に馬体を裏返したり(日に6~8回)、吊起帯補助(Sling support)によって褥瘡(Pressure sore)を予防します。
馬に見られる他の末梢神経の損傷病態としては、大腿神経麻痺(Femoral nerve paralysis)、坐骨神経麻痺(Sciatic nerve paralysis)、腓骨神経麻痺(Peroneal nerve paralysis)などが挙げられます。
大腿神経(Femoral nerve)は大腿四頭筋(Quadriceps femoris muscle)を支配する末梢神経で、転倒によって股関節(Hip joint)や膝関節(Stifle joint)を過剰伸展(Overextension)することで損傷を起こします。大腿神経麻痺の症例では、膝関節の伸展不能によって後肢虚脱(Hindlimb collapse)と遠位肢屈折などの所見を呈し、慢性病態では大腿四頭筋の萎縮が見られます。膝蓋反射(Patella reflex)は減退もしくは消失し、膝蓋骨の外方変位(Patellar lateral displacement)が見られる事もあります。皮膚触覚は、内側大腿部~内側脛骨踝(Medial tibial malleolus)にかけて欠損します。
坐骨神経(Sciatic nerve)は股関節の伸筋郡、および、膝関節の屈筋郡を支配する末梢神経で、主に難産時に胎児を引き出す際に損傷を起こします。坐骨神経麻痺の症例では、膝部脱落(Dropped stifle)と遠位肢ナックリングを呈し、慢性病態では尾側大腿部筋郡と多くの遠位肢筋郡の萎縮が見られます。皮膚触覚は、後肢内側を除く膝から遠位肢において消失します。
腓骨神経(Peroneal nerve)は足根関節の屈筋郡、および、遠位肢の伸筋郡を支配する末梢神経で、横臥位による長時間にわたる全身麻酔などによって損傷を起こします。腓骨神経麻痺の症例では、足根関節の過伸展(Hock hyperextension)と、球節や冠関節の屈曲が見られます。皮膚触覚は、膝から蹄部における頭外側において欠損します。
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