馬の病気:小脳アビオトロフィー
馬の神経器病 - 2015年08月05日 (水)

小脳アビオトロフィー(Cerebellar abiotrophy)について。
小脳の進行性変性(Progressive degeneration)に起因する神経症状を呈する疾患で、アラビアン純血種または混血種に多く見られますが、他の品種(Gotland pony, Oldenburg)での発症も報告されています。小脳低形成(Cerebellar hypoplasia)という診断名が用いられる場合もありますが、退行性変化は出生後に生じるため(Postnatal degeneration)、小脳の細胞活力衰微(=アビオトロフィー:Abiotrophy)という病名が最も適当であるという警鐘が鳴らされています。病因は未だに不明ですが、遺伝的素因(Genetic predisposition)が関与する可能性が示唆されています。
小脳アビオトロフィーの臨床症状は、通常は生後六ヶ月以内に起こり(二ヶ月~四ヶ月齢が最も一般的)、垂直または水平方向への不随意性頭部振戦(Vertical/horizontal head tremor)と意識性固有受容性欠陥(Conscious proprioceptive deficit)を特徴としますが、筋虚弱(Muscle weakness)や精神状態(Mentation)の異常は殆ど起こりません。また、多くの症例で威嚇反応の減退または消失(Decreased/absent menace response)が見られます。病態の進行に伴って、筋緊張亢進(Muscle hypertonia)、強直歩様(Stiff gait)、雁様蹄踏着(Goose-stepping foot landing)などの症状を示し、病状が数ヶ月にわたって進行性に経過する場合が殆どです。
小脳アビオトロフィー診断は、特徴的な臨床所見(Characteristic clinical signs)に加えて、他の類似疾患を除外診断(Rule-out)することで下されます。頭部外傷(Head trauma)、特に基底蝶形骨(Basisphenoid bone) の裂離骨折(Avulsion fracture)に起因する神経症状では、前庭機能異常(Vestibular dysfunction)を示す、捻転斜頚(Head tilt)、眼振(Nystagmus)、旋回運動(Circling)などの症状が見られ、進行性の病態経過は一般的ではありません。また、小脳アビオトロフィーと同様にアラビアン品種に特異的に起こる環椎後頭形成異常(Atlantooccipital malformation)に起因する神経症状では、多くの場合に筋虚弱を呈し(小脳アビオトロフィーでは稀)、不随意性の頭部振戦は殆ど見られません。小脳アビオトロフィー症例における脳脊髄液(Cerebrospinal fluid: CSF)の検査は一般的に正常範囲内ですが、CK濃度の上昇や蛋白濃度の軽度な上昇を示した症例も報告されています。
小脳アビオトロフィーに対する有効な治療法はありません。症例によっては、緩やかに神経症状の改善が見られる場合もありますが、騎乗できるまで回復する個体は皆無で、遺伝的疾患である可能性があるため、繁殖馬としての飼養も推奨されていません。
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