馬の病気:潰瘍性十二指腸炎
馬の消化器病 - 2013年04月13日 (土)

潰瘍性十二指腸炎(Ulcerative duodenitis)について。
近位十二指腸(Proximal duodenum)の糜爛(Erosion)、限局性潰瘍(Focal ulceration)、広汎性炎症(Diffuse inflammation)などを生じる疾患で、子馬または当歳馬に好発することが知られています。潰瘍性十二指腸炎は重度の胃潰瘍症候群(Gastric ulcer syndrome)や胃排出障害(Gastric emptying disorder)に併発する場合が多いことから、十二指腸粘膜が塩酸(Hydrochloric acid)やペプシン等の過剰な胃分泌液に暴露されて発症に至るという、消化性疾患(Peptic disorder)であるという病因論が提唱されています。また、胃からの酸性消化液の中和作用を担っている、膵臓からの重炭酸分泌(Bicarbonate-rich pancreas secretion)や肝臓からの胆汁分泌(Hepatic bile secretion)の減退も素因であると考えられています。しかし、地理性発病(Geographic pathogenesis)が認められる症例もあることから、ヘリコバクター菌(Helicobacter pylori)等の感染症が関与する可能性も示唆されています。
潰瘍性十二指腸炎は特異的な臨床症状(Specific clinical signs)が無く、発熱(Fever)、軽度~中程度疝痛(Mild to moderate colic)、下痢症(Diarrhea)などを呈し、初期病態においてはプアパフォーマンスを示すのみの個体もあります。また、胃潰瘍症候群を併発した症例においては、食欲不振(Anorexia)、歯ぎしり(Bruxism)、体重減少(Weight loss)、流涎(Ptyalism)等の症状が見られる場合もあります。
潰瘍性十二指腸炎の確定診断は、十二指腸鏡検査(Duodenoscopy)によって下され、六ヶ月齢以下の子馬においては、全長2mの内視鏡によって十二指腸まで到達できることが示されています。十二指腸鏡検査においては、糜爛、炎症、潰瘍等の病変が十二指腸膨大部(Duodenal ampulla)に最も多く観察され、幽門部における腸管から胃への消化液逆流(Enterogastric reflux through pylorus)が認められる場合もあります。胃内視鏡検査(Gastroscopy)の際に、内科治療の病歴があるにも関わらず、重篤な胃潰瘍および糜爛(Severe gastric ulceration/erosion)が見られた場合には、特に十二指腸疾患の関与を疑うことが重要です。また、胃排出障害を併発していると考えられる症例においては、造影レントゲン検査(Contrast radiography)によって胃排出遅延(二時間以上の造影剤の停滞)を確かめる手法も有効です。
潰瘍性十二指腸炎の治療では、数日間の絶食に併せて、PGE類似体(PGE analogue: Misoprostol, etc)の投与を実施して十二指腸粘膜の治癒促進が施され、粘膜付着剤(Mucosal adherent: Sucralfate, etc)による潰瘍部位の保護療法が併用される場合もあります。また、胃潰瘍症候群および胃排出障害の治療のため、ヒスタミン2型受容体拮抗薬(Histamin-2-receptor antagonist: Cimetidine, Ranitidine, Femotidine, Nizatidine, etc)およびプロトンポンプ遮断薬(Proton pump blocker: Omeprazole, Pantoprazole, Rabeprazole, Esomeprazole, etc)による胃酸分泌抑制、副交感神経刺激薬(Parasympathomimetic drug: Bethanechol, etc)および第一世代ベンザマイド(First generation benzamide: Metoclopramide, etc)による胃排出の亢進が試みられます。内科的治療に不応性の症例に対しては、胃腸吻合術(Gastroenterostomy)を介しての羅患部位の十二指腸の迂回手術(Bypass surgery)による治療成功例も報告されています。
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