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馬の病気:ウエストナイル脳炎

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ウエストナイル脳炎(West nile encephalitis)について。

フラビウイルス属のウエストナイルウイルス(West nile virus)の感染によって脳炎を引き起こす疾患で、米国では1999年に東海岸に上陸し、2005年までに本土全州に感染が拡大したことが報告されています。終宿主(Dead-end host)である馬および人への感染は、蓄積宿主(Reservoir host)である鳥類から蚊の吸血を介して起こり、四季のある地方では9~10月に最も多く発症が見られます。

ウエストナイル脳炎における神経症状としては、発熱(Fever)、食欲不振(Anorexia)、抑鬱(Depression)、線維束性筋収縮(Muscle fasciculation)などが起こります。また、ウエストナイル脳炎に比較的特徴的な病歴として、性格の変化(Changes in personality)が生じる事が知られており、大人しかった馬が興奮し易くなったり、攻撃的な性格の馬が従順になったりする事例が報告されています。少数の症例においては、集中力欠如(Attention deficits)、脱力発作(Cataplexy)、睡眠発作(Narcolepsy)様の神経症状を呈する場合もあります。運動器症状としては、動作緩慢(Bradykinesia)が見られ、固苦しく歩幅の狭い歩様から蹄葉炎様跛行(Laminitis-like lameness)と臨告される事もあります。多くの場合に、極めて非対称性な歩様(Highly asymmetric gait)を示し、脊髄損傷の病態進行に伴って、運動失調(Ataxia)、麻痺(Paresis)、起立不能(Recumbency)等の症状を呈します。脳神経損傷(Cranical nerve damages)を併発した症例では、舌虚弱(Tongue weakness)、口唇偏位(Muzzle deviation)、捻転斜頸(Head tilt)などが見られ、馬尾神経根損傷(Cauda equina damage)を併発した症例では、排尿困難(Stranguria)や直腸便秘(Rectal impaction)などの症状を呈する事もあります。ウエストナイル脳炎では、発症後数日~一週間で症状が一時的に改善した後、次の一週間のあいだに急激に再発する、などの不安定な病態経過を取ることが多く、急性に起立困難に陥ることの多い東部・西部馬脳炎(East/West equine encephalitis)との鑑別指針となる事が示唆されています。

ウエストナイル脳炎の確定診断(Definitive diagnosis)のためには、ELISA法による免疫グロブリンM(Immunoglobulin-M)の探知が最も有効で、良好な感度(Sensitivity)と特異度(Specificity)を達成できる事が示されています。ウエストナイルウイルスに対する血清中の中和抗体価(Serum neutralizing-antibody titer)を、溶菌班減少中和抗体試験(Plaque reduction neutralizing-antibody testing)で測定する手法は、ワクチン接種された馬では偽陽性(False positive)を示すため、近年ではあまり有用ではありません。ウエストナイル脳炎においては、血液検査は通常は正常範囲内ですが、軽度のリンパ数減少症(Mild lymphopenia)、筋酵素濃度の上昇(Elevated muscle enzymes)、ナトリウム減少症(Hyponatremia)等を示すこともあります。脳脊髄液検査(Cerebrospinal fluid analysis)では、蛋白濃度と白血球数が正常値または微増を示します。

ウエストナイル脳炎の治療においては、抗ウイルス製剤が無いため、補助療法を主とします。多くの症例において、コルチコステロイドまたは非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与、補液療法(Fluid therapy)、抗生物質療法(Anti-microbial therapy)による二次性感染(Secondary infection)の予防などが行われます。起立不能に陥った場合には、鎮静剤(Sedatives: Detomidine, Acepromazine, etc)による自己損害性外傷(Self-inflicted wounds)の予防と、吊起帯補助(Sling support)によって筋機能回復と褥瘡(Decubital ulcers)の予防が試みられます。脳脊髄液のウェスタンブロット検査によって類似疾患である馬原虫性脊髄脳炎(Equine protozoal myeloencephalitis)が除外診断されるまでは、抗原虫薬(Anti-protozoal agents)を投与することも推奨されています。

北米ではウエストナイル脳炎の予防のため、数種類のワクチンが市販されており、基礎ワクチン、追加ワクチンの投与後、年一回の補強ワクチンを、蚊の発生時期の直前に接種する指針が用いられています。ウエストナイルウイルスの人への伝播を考慮して、治療に用いた注射針の取り扱いや、安楽死処置となった場合には、死後検査後の馬体や敷藁の廃棄には細心の注意を払うことが必要です。

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