まず馬ありき
未分類 - 2015年08月07日 (金)

全米馬臨床医協会(American Association of Equine Practitioners: AAEP)は、2008年のケンタッキーダービーにおけるEight Bellesのような事故を防ぐことを目標として、米国における競走馬の健康を守るためのガイドラインを発表しました。
『競走馬の安全と福祉のための獣医学的提言』(Veterinary Recommendations for the Safety and Welfare of the Racehorse)
この提言には、以下のような重要事項が含まれています。
(1)レース中の事故の発症率を減少させる方針を開発および推進していくこと。
(2)レース前後の獣医検査を徹底し、情報交換を義務付けること。
(3)全ての競馬場において国際ルールにのっとり、レース当日にはいかなる投薬も行わないこと(フロセマイドを除く)。
(4)競馬場の監視員を増強して、投薬ルールが順守されていることを監視すること。
(5)引退馬のための、リハビリ、再調教、乗用や繁殖馬への転売斡旋、等のプログラムを構築すること。
一見、当たり前のような事ばかりじゃないかとも思われますが、当たり前のことを例外なくキチンと遂行していくのが一番難しいのかもしれません。また、この委員会代表であるパーマー獣医師の話によれば、レースの運営および興業のために、馬の健康をおびやかす可能性のある方針が取られている事例も僅かながらあるそうで、米国における一つの例としては、主催者が馬房の割り当てシステム(Stall allotment system)を設けることで、調教師にプレッシャーが掛かり、休養が不十分な馬までもレースにエントリーする場合がまったく無いとは言えず、これによって故障の危険が高まる可能性が論じられています。
パーマー獣医師の指摘によれば、医療関係者である獣医協会が、ビジネスとしてのレース運営に物申すのは少し場違いに感じられるのかもしれませんが、全米サラブレッドレース協会(National Thoroughbred Racing Association)が提唱している五つの改革課題を見れば、(1)薬物検査法の発展、(2)競走中の事故の報告義務化、(3)競走馬の事故防止のための研究促進、(4)事故発生率の減少のためのレース環境の改善、(5)引退馬のための診療設備の充実、というように、全てが獣医医療に関連した項目であると言えるのかもしれません。
AAEPが発表した上述リンクの提言には、『まず馬ありき』(“Putting the Horse First”)というタイトルが付けられています。レースを見る人、馬に乗る人、馬を調教する人、馬の世話をする人、馬の治療をする人、そして馬に携わる全ての関係者の皆さん、立場や仕事の肩書きは違えど、馬を愛するというホースマンとしての心は共通しています。馬にとって最善の方針が、レースにとっても最善の方針である、という基本理念を忘れてはいけないな、と改めて痛感させられた気がしました。
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関連リンク:
Osborne E. JAVMA News, “AAEP releases guidelines on protecting Thoroughbred health. Standardized examinations, uniform medication rules recommended.” J Am Vet Med Assoc, 2009, April 1st; 234, (7): 850-870.