馬にも広がる再生医療
未分類 - 2015年08月08日 (土)

再生医療(Regenerative medicine)の臨床応用は、馬の獣医学分野にも急速に広がっているようです。
ケンタッキー州のレキシントンにある大規模な馬の診療施設、「ルッド・アンド・リドル馬病院」(Rood and Riddle Equine Hospital)では、今月、馬主を対象とする再生医療の説明会が開かれました。このなかでは、(1)幹細胞入門(Stem Cell 101)、(2)IRAP、PRP,および幹細胞の抽出(Sorting Out IRAP, PRP and Stem Cells)、(3)整形外科疾患への幹細胞の使用(Using Stem Cells for Orthopedic Injuries)、(4)幹細胞による蹄葉炎の治療(Treating Laminitis with Stem Cell Therapy)、という四項目の解説が行われました(IRAPはインターロイキン1受容体拮抗蛋白、PRPは多血小板血漿のこと)。
また、レキシントンではこの説明会に合わせて、北米獣医再生医療協会(North American Veterinary Regenerative Medicine Association: NAVRMA)の年次大会も開催されました。そのプログラムを見ると、発表内容の半分近くを馬の話題が占めており、馬の獣医学分野において再生医療の臨床応用が進んでいることが、改めて印象付けられました。このような説明会や学会を通して、馬主や調教師のあいだに再生医療に関する知識が広がっていけば、それを求められる獣医師の側も自然と幹細胞やIRAP、多血小板血漿などのことを勉強して、臨床の現場に導入して行かざるを得なくなるので、馬の獣医分野に最新の再生医療が普及していく助けになるのではないでしょうか。
しかし、問題点があるとすれば、馬の病気に対する再生医療の使用法や治療効果に関する知見は、必ずしも完全には深まっていないことが挙げられます。例えば、浅屈腱炎(Superficial digital flexor tendinitis)や繋靭帯炎(Suspensory desmitis)などの病巣に幹細胞を注射するにしても、どの時期に注射するのか?、何個の幹細胞を注射するのか?、どんな種類の幹細胞を注射すべきなのか?(骨髄幹細胞、脂肪幹細胞、臍帯血幹細胞、胚性幹細胞、etc)、どの程度の期間で再注射するべきなの?、幹細胞治療による治癒成功率は?、などに関しては、ハッキリとした答えは出ていません。
そう言った意味では、馬の臨床獣医師の立場としては、物珍しさから治療依頼してくる馬主から安易に治療費を得てしまうことなく、再生医療の現状や限界点を丁寧に説明して、「馬の福祉や利益」を第一に考えて診療を行うという、獣医師の倫理性も求められてくるようになるのかもしれません。
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関連リンク:
North American Veterinary Regenerative Medicine Association website.
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