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馬のサク癖は管理法の改善で減少できる!

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馬のサク癖の治療法について。

サク癖(Crib-biting/wind-sucking)(別名:グイッポ)とは、固定物に前歯を引っ掛けて空気を飲み込む常同行動(Stereotyped behavior)を指し、米国でも4.4%の馬に見られることが知られています(Albright et al. 2009)。古典的には、馬が覚える悪癖だと片付けられてきましたが、近年の研究では、人間の精神医学でいう強迫性障害(obsessive-compulsive disorder)によく似た「心の病気」であることが分かってきており(Wickens and Heleski. 2010)、管理法の改善によってサク癖の頻度や重篤度を減少できることが提唱されています。

Management Practices Could Help Reduce Cribbing. Michigan State University College of Agriculture. September 1st, 2011, Article #18759.

新しい環境下でサク癖を始めた馬でも、はじめの三ヶ月以内であれば、まだ可逆的な悪癖であると考えられており(Visser et al. 2008)、サク癖を減少させるために、以下のような管理法の改善が推奨されています。
(1)乾草などの粗飼料を十分に与えること。
(2)牧草地へと放牧する回数を増やすこと。
(3)多頭で放牧するなど、他の馬と交流する機会を設けること。
(4)サク癖バンドを装着して、空気を飲み込むのが不快になるようにすること。

また、古典的に言われている、サク癖する馬は風気疝(Gas colic)を起こしやすいというのは、迷信に近いと考えられており、運動量や粗飼料が不足すると言ったサク癖を誘発するような環境因子(Environmental factor)が疝痛の危険を増すことはあっても、サク癖という行為が特定のタイプの疝痛の発症率(Incidence)を増加させるわけではないことが報告されています(Malamed et al. 2010)。一方、馬がサク癖をする際に胸腔内が陰圧になり、小腸が前方に引き寄せられて、網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)を発症する危険が増すという仮説もなされています(Archer et al. 2008)。

さらに、一頭がサク癖していると他の馬が真似をして覚えてしまうという定説も、実際には根拠が乏しいと考えられています。例えば、サク癖馬のいる厩舎に新たな馬が入厩して、サク癖をし始めるケースはあるものの、サク癖する馬のいない厩舎にサク癖馬が入厩してきても、今までそこにいた馬がサク癖をし始める可能性は殆どないことが報告されています(Albright et al. 2009)。つまり、他の馬の真似をしてサク癖を覚えるのではなく、馬房で退屈する時間が長いなどといった「サク癖を誘発しやすい悪い環境下」に移ってきた馬が自発的にサク癖を始めてしまう、というのが実態のようです。

サク癖を止めない馬に対しては、レーザー焼烙によって空気を飲み込むための筋肉および神経を切除する手術や(Delacalle et al. 2002)、前歯の隙間に金属片を挿入する手法も行われています。しかし、サク癖は慢性のストレスに起因する心の病気ですので、外科的な手法で見た目の行動だけを強引に止めさせることに関しては、馬の福祉の観点からも賛否両論(Controversy)があります。

サク癖をしている馬がいたら、「ストレスが溜まっている」という馬からのシグナルだと考えて、給餌内容を改善したり、放牧によって狭い馬房から解き放ってあげることが、本当の意味での“治療”と言えるのではないでしょうか。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.

関連記事:
・サク癖する馬は疝痛になり易い?
・馬はサク癖を見て真似をする?
・馬のサク癖では空気を飲んでいない?
・馬のサク癖と疝痛は関係している?

参考文献:
[1] Delacalle J, Burba DJ, Tetens J, Moore RM. Nd:YAG laser-assisted modified Forssell's procedure for treatment of cribbing (crib-biting) in horses. Vet Surg. 2002; 31(2): 111-116.
[2] Visser EK, Ellis AD, Reenen GV. The effect of two different housing conditions on the welfare of young horses stabled for the first time. Applied Animal Behaviour Science. 2008; 114(3): 521-533.
[3] Archer DC, Pinchbeck GL, French NP, Proudman CJ. Risk factors for epiploic foramen entrapment colic in a UK horse population: a prospective case-control study. Equine Vet J. 2008; 40(4): 405-410.
[4] Albright JD, Mohammed HO, Heleski CR, Wickens CL, Houpt KA. Crib-biting in US horses: breed predispositions and owner perceptions of aetiology. Equine Vet J. 2009; 41(5): 455-458.
[5] Malamed R, Berger J, Bain MJ, Kass P, Spier SJ. Retrospective evaluation of crib-biting and windsucking behaviours and owner-perceived behavioural traits as risk factors for colic in horses. Equine Vet J. 2010; 42(8): 686-692.
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このエントリーのタグ: 行動学 疝痛 動物学 動物福祉 飼養管理

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