レース中の馬の内視鏡検査
話題 - 2015年08月09日 (日)
レース中の馬に対する内視鏡検査（Endoscopy）が試みられています。
Priest DT, Cheetham J, Regner AL, Mitchell L, Soderholm LV, Tamzali Y, Ducharme NG. Dynamic respiratory endoscopy of Standardbred racehorses during qualifying races. Equine Vet J. 2012 Sep;44(5):529-34.
馬に起こる多くの上部気道疾患（Upper airway disorder）は、安静時には認められず、高速運動時における内視鏡検査によってのみ、異常所見が認められることが知られており、これには、左側喉頭片麻痺（LLH）、軟口蓋背方変位（DDSP）、喉頭蓋捕捉（EE）、口蓋咽頭弓吻側変位（RDPA）、披裂喉頭蓋襞軸性偏位（ADAF）などが含まれます。そして近年では、動的呼吸器内視鏡（Dynamic respiratory endoscopy）と呼ばれるポータブル録画式の機材が開発されたことで、トレッドミル上だけでなく、実際に地面を走っている馬に対しても、運動中の内視鏡検査が可能になっています。
今回の研究では、ハーネスレースに用いられるスタンダードブレッド馬における、認定競走（Qualifying races）の中での内視鏡検査が試みられ、競走能力や成績に影響を与えることなく、レース中の上部気道閉塞（Upper airway obstructions）の診断ができることが示されました。しかし、速歩（Trot）や側対歩（Pace）でレースするスタンダードブレッドと異なり、襲歩（Gallop）でレースするサラブレッド競走馬に対しては、着地時の衝撃に大きさや、頭尾側方向への頭部動揺の幅、万が一に事故が起こった場合の騎手や他馬への危険性、などを考慮すると、レース中の動的呼吸器内視鏡の応用は、ちょっと難しいのかもしれません。
この研究では、12%の馬において、両側性の披裂軟骨腹内側変位（Ventro-medial arytenoid displacement: VMAD）（＝両方の披裂軟骨尖端が下方に落ち込む）という病気が認められ、これは過去の文献で報告されている披裂軟骨亜脱臼（Arytenoid subluxation）（＝披裂軟骨靭帯の幅が広い馬において、左側披裂軟骨尖端が右側披裂軟骨尖端の下方に潜り込む）とは異なる病態だと考察されています。このVMADという病気における、有病率（Prevalence）や有意性（Significance）は明らかではなく、今後の更なる検証を要する病態であると考えられました。
この研究では、DDSPを呈した馬のうち、その半数はレース終了後（＝ゴール地点を通過後）に発症しており、この病態は、臨床的にはそれほど重要ではない（Clinical irrelevant）という考察がなされています。その理由としては、レース終了後のDDSPは、軟口蓋の安定化に関与している筋肉の疲労（Muscle fatigue）や、レース終了後の騎手の手綱操作（Driver’s manoeuvres）によって生じる場合もあること、馬自身が気道閉塞になるのを憂慮（Horse’s apprehension to the obstruction）してDDSPを助長する可能性もあること、などが挙げられています。
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関連リンク：
[1] Desmaizieres LM, Serraud N, Plainfosse B, Michel A, Tamzali Y. Dynamic respiratory endoscopy without treadmill in 68 performance Standardbred, Thoroughbred and saddle horses under natural training conditions. Equine Vet J. 2009 Apr;41(4):347-52.
[2] Franklin H, Burnt JF, Allen KJ. Clinical trials using a telemetric endoscope for use during over-ground exercise: a preliminary study. Equine Vet J. 2008 Nov;40(7):712-5.
[3] Pollock PJ, Reardon RJ, Parkin TD, Johnston MS, Tate J, Love S. Dynamic respiratory endoscopy in 67 Thoroughbred racehorses training under normal ridden exercise conditions. Equine Vet J. 2009 Apr;41(4):354-60.
[4] Allen KJ, Franklin SH. Assessment of the exercise tests used during overground endoscopy in UK Thoroughbred racehorses and how these may affect the diagnosis of dynamic upper respiratory tract obstructions. Equine Vet J. 2010 Nov;42 Suppl 38:587-91.
[5] Allen KJ, Franklin SH. Comparisons of overground endoscopy and treadmill endoscopy in UK Thoroughbred racehorses. Equine Vet J. 2010 Apr;42(3):186-91.
